1970年代イギリス軍のアシンメトリークロノグラフ ミリタリーウォッチ
ハミルトン、CWC、ニューマーク、プレシスタの4社は、シンプルで頑丈な30分計搭載のツーレジスタクロノグラフを10年以上もの間イギリス軍に供給していました。
黒い文字盤、Valjoux 7733のムーブメント、アシンメトリーなケースのデザインが高度な実用性を実現しており、現在でも人気を誇っています。
その軍縮政策のひとつとして、より安価で商用販売も可能なムーブメントが使用されたパイロットウォッチを製造するため、イギリス国防省はDEF-STANと呼ばれるパイロットウォッチの規格を見直しました。
その結果使用されるようになったのが、Valijoux 7733と呼ばれるムーブメントです。
このムーブメントと独特なケースのデザインはイギリス パイロットウォッチの定番となり、クォーツ式クロノグラフが出回る以前の1970年代~80年代前半にかけて使用されました。
それでは、現在まで愛されるデザインについて詳しく紹介していきましょう。
1969年4月に発表されたDEF-STAN 66-4 (Part 2)項が翌1970年に修正され、これによりイギリスのパイロットウォッチのデザインに対し細かいながらも重要な変化がもたらされます。
まず、ストップウォッチ機能を搭載するため、パイロットウォッチにボタンを1つまたは2つ追加できるようになりました。
この修正により、Valjoux 7733のムーブメントが使用できるようになります(ムーブメントの詳細については後述します)。
さらに、それらのボタンがリューズをはさんで上下に配置されたことで縦のバランスがとられ、今までにない美しいデザインを生み出すこととなりました。
こちらのクロノグラフには、変更されなかった点もあります。
それは、ケースのフォルムが左右非対称であるということです。
使用中、リューズやボタンが偶然操作されてしまうことを防ぐため、左側に比べ右側のほうが厚い作りになっています。
このようなデザインの腕時計は、「アシンメトリークロノグラフ」と呼ばれるようになりました。
このようなケースのデザインを含め、パイロットウォッチのデザインはほぼすべてこのDEF-STAN 66-4 (Part 2)という規格で規定されています。
そのため複数ブランドが製造しているにもかかわらず、外観はほぼ同一となりました。
黒い文字盤に白インク、12と6のインデックスと各時刻を示すドットには夜光塗料が使用されています。
中心に配置されている時針・分針、そして9時の位置にあるサブダイアルを使って時刻を知ることができ、中心の秒針と3時の位置にある30分計がストップウォッチ機能を果たします。
リューズの上にあるのがストップウォッチのスタートとストップ、下にあるのがストップボタンです。
12時の位置に各ブランドのロゴがあり、その下にインデックスやドット、時計の針に使われている夜光塗料がトリチウムであることを示す“T”のマークが付けられています。
ハミルトンとCWCの製品には、文字盤にイギリス政府の所有物であることを示す「ブロードアロー」と呼ばれるマークが見られます。
後述のとおり、裏蓋にもこのブロードアローのマークが刻印されています。
すべての軍事用品と同じく、ミリタリーウォッチも支給後の追跡が重要となります。
このプロセスを楽に行うため、ミリタリーウォッチにはアイテムタイプナンバー、支給元、支給年度、個体番号の4つの重要な情報が刻印されました。
こちらの腕時計のアイテムタイプナンバーは“924-3306”であったため、全ての製品にこの番号が刻印されています。
支給元はイギリスに2か所、オーストラリアに1か所あり、それぞれ番号は以下のとおりです。
・0552:イギリス海軍
・6BB:イギリス空軍
・6645-99:王立オーストラリア海軍
時には、ある軍に支給されていた時計が回収され、別の軍にあらためて支給されることがありました。
例えば、写真の4番目のものは“0552”の表記に打消し線が引かれ上部に“6BB”の刻印が打たれており、イギリス海軍に支給されたのちイギリス空軍に再支給されていることがわかります。
支給元やアイテムタイプナンバーの下には、国王の所有物であることを示すブロードアローのマークが刻印されています。
さらにその下に、各個体を識別するためのシリアルナンバーと支給年度の末尾2文字が刻印されています。
この腕時計はハミルトンが1970年に初めて製造を開始し、その後1973年にCWCが、1980年にニューマーク、1981年にプレシスタが製造を開始しました。
ツーボタン、ツーレジスタ、30分計を搭載したValjoux 7733のムーブメントは、魅力的かつ手頃な価格のクロノグラフの動力として1970年代に多くの腕時計メーカーが使用していました。
773で始まるムーブメントには信頼性の高い設計の歴史があり、また部品にも互換性があったため、7733はシンプルなクロノグラフに適しており、イギリス軍のパイロットウォッチの素晴らしい原動力となりました。
ムーブメントは3時の位置に配置されたリューズを使って巻く手巻き式で振動数は18,000振動/時です。
ストップウォッチ機能の使用方法は前述のとおりです。
製造期間が1年間と短かったため、ニューマークとプレシスカのモデルが最も希少で状態の良いものは25万~40万円ほどで取引されています。
CWCとハミルトンのモデルはおおく取引されており、状態のいいものでおよそ25万~35万円ほどで販売されています。
10年以上も軍で使用され、各モデル間のパーツの互換性が高かったことから、様々なメーカーのパーツが混在したモデルがおおく存在します(例えば、文字盤はハミルトン製、CWCのサインが書かれたムーブメントが搭載されており、裏蓋の支給年度も一致しないモデル、など)。
こういった様々なパーツが混在した腕時計が本物でないというわけではありません。
このような部品の交換を行うには、その時々で様々なパーツを手に入れられる状態になければなりません。
したがって、イギリス国防省委託の腕時計メーカーがこういった部品の交換を行っていたことは、よく知られている事実です。
こういった有名な言われのある商品は、どのようなミリタリーウォッチでも購入する価値があるといえるでしょう。
元々の所有者から手に入れられない場合は、信頼性のあるディーラーやコレクターのコミュニティなどから手に入れることをおすすめします。
こういった人気を受けて、現在でも当時の時計を模した新しい腕時計が販売されています。
CWCは現在でもイギリスのDEF-STAN規格に則った腕時計を製造しており、Valijoux 7760ムーブメントを使用した新しい手巻き腕時計を販売しています。
プレシスカの商標は現在TimeFactorsのエディー・プラッツが所有しており、Seagull ST-19ムーブメントを搭載した腕時計のリメイク版が45,000円ほどで販売されていましたが、現在は販売中止となっています。
どちらも当時のアシンメトリークロノグラフのクラシックな見た目を忠実に再現しながら、現代のムーブメントが搭載されており保証書もついています。
ハミルトンも、このクラシックなデザインを現代的な腕時計としてリメイクしたPilot Pioneerという商品を販売しています。
これは私の個人的な感想なのですが、やはりリメイク版というは洗練されたものがあります。
どちらかというと、ファッション的な嗜好も感じる事が出来るものに仕上がっています。
そのため私は軍事を模倣して作られた時計のように感じてどうも馴染みません。
やはり実際にそこで使われてたという背景があるからこそ、そのミリタリーウォッチに引き込まれるのだと思っています。
その為私はやはり当時の1970年代の時計に愛着が湧くのです。
黒い文字盤、Valjoux 7733のムーブメント、アシンメトリーなケースのデザインが高度な実用性を実現しており、現在でも人気を誇っています。
バルジュー7733が採用された歴史
1970年代前半、アメリカが東南アジアとの紛争やソビエト連邦との冷戦に対抗するため軍拡を進めていたなか、イギリスは数とコストの両面において軍縮に向かっていました。その軍縮政策のひとつとして、より安価で商用販売も可能なムーブメントが使用されたパイロットウォッチを製造するため、イギリス国防省はDEF-STANと呼ばれるパイロットウォッチの規格を見直しました。
その結果使用されるようになったのが、Valijoux 7733と呼ばれるムーブメントです。
このムーブメントと独特なケースのデザインはイギリス パイロットウォッチの定番となり、クォーツ式クロノグラフが出回る以前の1970年代~80年代前半にかけて使用されました。
それでは、現在まで愛されるデザインについて詳しく紹介していきましょう。
バルジュー7733のデザイン
1969年4月に発表されたDEF-STAN 66-4 (Part 2)項が翌1970年に修正され、これによりイギリスのパイロットウォッチのデザインに対し細かいながらも重要な変化がもたらされます。
まず、ストップウォッチ機能を搭載するため、パイロットウォッチにボタンを1つまたは2つ追加できるようになりました。
この修正により、Valjoux 7733のムーブメントが使用できるようになります(ムーブメントの詳細については後述します)。
さらに、それらのボタンがリューズをはさんで上下に配置されたことで縦のバランスがとられ、今までにない美しいデザインを生み出すこととなりました。
こちらのクロノグラフには、変更されなかった点もあります。
それは、ケースのフォルムが左右非対称であるということです。
使用中、リューズやボタンが偶然操作されてしまうことを防ぐため、左側に比べ右側のほうが厚い作りになっています。
このようなデザインの腕時計は、「アシンメトリークロノグラフ」と呼ばれるようになりました。
このようなケースのデザインを含め、パイロットウォッチのデザインはほぼすべてこのDEF-STAN 66-4 (Part 2)という規格で規定されています。
そのため複数ブランドが製造しているにもかかわらず、外観はほぼ同一となりました。
黒い文字盤に白インク、12と6のインデックスと各時刻を示すドットには夜光塗料が使用されています。
中心に配置されている時針・分針、そして9時の位置にあるサブダイアルを使って時刻を知ることができ、中心の秒針と3時の位置にある30分計がストップウォッチ機能を果たします。
リューズの上にあるのがストップウォッチのスタートとストップ、下にあるのがストップボタンです。
12時の位置に各ブランドのロゴがあり、その下にインデックスやドット、時計の針に使われている夜光塗料がトリチウムであることを示す“T”のマークが付けられています。
ハミルトンとCWCの製品には、文字盤にイギリス政府の所有物であることを示す「ブロードアロー」と呼ばれるマークが見られます。
後述のとおり、裏蓋にもこのブロードアローのマークが刻印されています。
刻印
すべての軍事用品と同じく、ミリタリーウォッチも支給後の追跡が重要となります。
このプロセスを楽に行うため、ミリタリーウォッチにはアイテムタイプナンバー、支給元、支給年度、個体番号の4つの重要な情報が刻印されました。
こちらの腕時計のアイテムタイプナンバーは“924-3306”であったため、全ての製品にこの番号が刻印されています。
支給元はイギリスに2か所、オーストラリアに1か所あり、それぞれ番号は以下のとおりです。
・0552:イギリス海軍
・6BB:イギリス空軍
・6645-99:王立オーストラリア海軍
時には、ある軍に支給されていた時計が回収され、別の軍にあらためて支給されることがありました。
例えば、写真の4番目のものは“0552”の表記に打消し線が引かれ上部に“6BB”の刻印が打たれており、イギリス海軍に支給されたのちイギリス空軍に再支給されていることがわかります。
支給元やアイテムタイプナンバーの下には、国王の所有物であることを示すブロードアローのマークが刻印されています。
さらにその下に、各個体を識別するためのシリアルナンバーと支給年度の末尾2文字が刻印されています。
この腕時計はハミルトンが1970年に初めて製造を開始し、その後1973年にCWCが、1980年にニューマーク、1981年にプレシスタが製造を開始しました。
ムーブメント
ツーボタン、ツーレジスタ、30分計を搭載したValjoux 7733のムーブメントは、魅力的かつ手頃な価格のクロノグラフの動力として1970年代に多くの腕時計メーカーが使用していました。
773で始まるムーブメントには信頼性の高い設計の歴史があり、また部品にも互換性があったため、7733はシンプルなクロノグラフに適しており、イギリス軍のパイロットウォッチの素晴らしい原動力となりました。
ムーブメントは3時の位置に配置されたリューズを使って巻く手巻き式で振動数は18,000振動/時です。
ストップウォッチ機能の使用方法は前述のとおりです。
入手について
シンプルながら魅力的あるデザイン性を持ち、高品質で、軍事的なつながりもありますが、近年これらの時計はコレクターたちの手に渡り非常に入手しにくくなっています。製造期間が1年間と短かったため、ニューマークとプレシスカのモデルが最も希少で状態の良いものは25万~40万円ほどで取引されています。
CWCとハミルトンのモデルはおおく取引されており、状態のいいものでおよそ25万~35万円ほどで販売されています。
10年以上も軍で使用され、各モデル間のパーツの互換性が高かったことから、様々なメーカーのパーツが混在したモデルがおおく存在します(例えば、文字盤はハミルトン製、CWCのサインが書かれたムーブメントが搭載されており、裏蓋の支給年度も一致しないモデル、など)。
こういった様々なパーツが混在した腕時計が本物でないというわけではありません。
このような部品の交換を行うには、その時々で様々なパーツを手に入れられる状態になければなりません。
したがって、イギリス国防省委託の腕時計メーカーがこういった部品の交換を行っていたことは、よく知られている事実です。
こういった有名な言われのある商品は、どのようなミリタリーウォッチでも購入する価値があるといえるでしょう。
元々の所有者から手に入れられない場合は、信頼性のあるディーラーやコレクターのコミュニティなどから手に入れることをおすすめします。
現代への影響
ここまで、1970年代に使用されたイギリス軍クロノグラフが現在どれほど人気となっているかについておはなししてきました。こういった人気を受けて、現在でも当時の時計を模した新しい腕時計が販売されています。
CWCは現在でもイギリスのDEF-STAN規格に則った腕時計を製造しており、Valijoux 7760ムーブメントを使用した新しい手巻き腕時計を販売しています。
プレシスカの商標は現在TimeFactorsのエディー・プラッツが所有しており、Seagull ST-19ムーブメントを搭載した腕時計のリメイク版が45,000円ほどで販売されていましたが、現在は販売中止となっています。
どちらも当時のアシンメトリークロノグラフのクラシックな見た目を忠実に再現しながら、現代のムーブメントが搭載されており保証書もついています。
ハミルトンも、このクラシックなデザインを現代的な腕時計としてリメイクしたPilot Pioneerという商品を販売しています。
これは私の個人的な感想なのですが、やはりリメイク版というは洗練されたものがあります。
どちらかというと、ファッション的な嗜好も感じる事が出来るものに仕上がっています。
そのため私は軍事を模倣して作られた時計のように感じてどうも馴染みません。
やはり実際にそこで使われてたという背景があるからこそ、そのミリタリーウォッチに引き込まれるのだと思っています。
その為私はやはり当時の1970年代の時計に愛着が湧くのです。