イタリア空軍クロノグラフ(ユニバーサルジュネーブ、レオニダス、ゼニス、ブライトリング)
ユニバーサルジュネーブ、レオニダス、ゼニス、ブライトイング。
どれも「クロノグラフスペシャリスト」と呼ばれるほどの技術を持った有名スイス時計メーカーです。
1950年台から1970年台にかけて、この4社はイタリア空軍向けにクロノグラフを製造していました。
ユニバーサルジュネーブ(Universal Geneve)A. Cairelli TIPO HA-1
時計の紹介をする前に、A. Cairelli(カイレッリ)社の説明を少し。
A. Cairelli社は1920年代にイタリア・ローマで時計修理店として開業し、1932年から、イタリア空軍といくつかのスイス時メーカーの取引を仲介をする代理店の役割を果たしました。
A. Cairelli社が取引仲介したのは、ユニバーサルジュネーブとゼニスの2社でした。
このような理由で、この2社のイタリア空軍向けクロノグラフの文字盤には「A. Cairelli Roma」のロゴが印刷されています。
ユニバーサルジュネーブ A. Cairelli TIPO HA-1は、1953年ごろイタリア空軍に納入されました。
「TIPO」とはイタリア語で「タイプ・型」を意味します。
このクロノグラフは、地中海沿岸で対潜水艦偵察機を操縦するパイロットに支給されました。
夜間飛行中でも問題なく時間を確認できるようにケースサイズは45mmととても大きく作られ、視認性を確保しました。
白の文字盤に黒のアラビア数字、6時方向には「A. Cairelli」の名前が印刷されています。
針は青焼きのブレゲ針です。
珍しく24時間時計であることが、大きな特徴です。
2レジスターで、3時方向に16分積算計が、9時方向にスモールセコンドが配置されています。
ムーブメントは手巻き17石のバルジュー55。
フライバック機構、スップリトセコンド機能を搭載しています。
スプリットセコンドとは、2本のクロノグラフ秒針が同時に作動することにより、全体の時間だけでなく途中のラップタイムも測れる機能のことです。
クロノグラフをスタートさせると2本のクロノグラフ秒針が一緒に動き出し、ラップタイムを測るために途中で止めると1本のクロノグラフ秒針だけが止まり、もう1方のクロノグラフ秒針は動き続けます。
ラップタイムを確認しもう一度プッシャーを押すと、止まっていたクロノグラフ秒針が動き続けているクロノグラフ秒針に追いつき、また一緒に動き出すのです。
このクロノグラフのプッシャーはモノプッシャーになっており、真ん中のプッシャーを押すとクロノグラフをスタート/ストップすることができ、上のプッシャーを押すとスプリットセコンド機能を作動させることができます。
ユニバーサルジュネーブ A. Cairelli TIPO HA-1は元々の数量がとても少なく、とても貴重なミリタリークロノグラフとなっています。
ケースの材質はステンレススチール、ケースバックはスナップ式で、イタリア空軍のものであることを示す「AMI(Aeronautica Militare Italiana)」と言う文字がケースバックに彫り込まれています。
TIPO CP-1 / TIPO CP-2
1960年代になると、イタリア軍向けクロノグラフの仕様はTIPO CP-1に変わり、ほどなくTIPO CP-2に変わりました。
「CP」とは「Cronometro da Polso」、つまり「腕時計」のことです。
CP-1とCP-2の大きな違いは、そのケースサイズ。
CP-1の39mmに対してCP-2は43mmと、非常に大きくなっています。
CP-1はレオニダスとブライトリングが、CP-2はレオニダス、ユニバーサルジュネーブ、ゼニスが製造しました。
レオニダス(Leonidas)TIPO CP-1、TIPO CP-2
レオニダスのCP-1 / CP-2クロノグラフは、1960年代に製造されました。
イタリア空軍が定めた仕様CP-1はすぐにCP-2に変更されたため、レオニダスCP-1は非常に数が少なく、コレクターの憧れとなっています。
レオニダスCP-1 / CP-2とも、マットブラックの文字盤に大きなアラビア数字が配置され、ベゼルは回転式です。
2レジスターで3時方向に30分積算計が、9時方向にスモールセコンドが配置されています。
ムーブメントは手巻き17石のバルジュー・キャリバー222を搭載。
フライバック機構が付いています。
レオニダスCP-1について特筆すべきは、ハック機能が付いていること。
ハック機能とは、竜頭を引くと秒針が止まる機能のことです。
また、ケースには頑丈なクラムシェルケース方式が採用され、防水機能が強化されています。
レオニダスCP-2は43mmの大きなサイズが特徴です。
CP-1に比べて数は多いですが、それでも貴重なミリタリークロノグラフとなっています。
レオニダスは後にホイヤーと合併、ホイヤーがタグ・ホイヤーになった時点で、社名は消滅してしまいました。
ユニバーサルジュネーブ A. Cairelli TIPO CP-2
TIPO CP-2の中でも特に珍しく特に美しいクロノグラフだと言われているのがユニバーサルジュネーブのA.Cairelli TIPO CP-2です。
ムーブメントは手巻き17石のキャリバー285Pを搭載。
文字盤6時方向には「A. Cairelli Roma」と印刷されています。
ゼニス(Zenith)A. Cairelli TIPO CP-2
先述の通り、ゼニスはA. Cairelli社を通してイギリス空軍に時計を納入していました。
文字盤に印刷された「A. Cairelli Roma」のロゴがそのつながりを物語っています。
ムーブメントは手巻き17石のゼニス・146DPを搭載。
このキャリバーは、ゼニスが1959年に買収したマーテル社が開発したキャリバーです。
表面にはロジウムメッキが施され、耐衝撃性能、耐磁気性能、ホコリの侵入を防ぐキャップが付いています。
文字盤は黒のラッカーダイアルで、バトン型の針にはトリチウム発光塗料が塗られています。
ケースは艶出しのステンレススチール製、ケースバックはスクリュー式です。
全部で2500個ほどのゼニスCP-2が製造されましたが、すべての納入が終わる前に、イタリア空軍が注文をキャンセルしたと言われています。
そこでA. Cairelli社は、手元に残ったゼニスCP-2を一般向けに販売しました。
イタリア空軍に納入されたゼニスCP-2のケースバックには、イタリア空軍を示す「AMI」の文字と、まれに、イタリア海軍を示す「MM」の文字が彫り込まれています。
一般向けに販売されたゼニスCP-2のケースバックにはその文字は彫り込まれておらず、「CRONOMETRO - TIPO CO-2 - A. CAIRELLI-ROMA」とだけ彫り込まれています。
ブライトリング(Breitling)CP-1 Ref.817
最後は、今回紹介する中で最も希少なクロノグラフ、ブライトリング CP-1 Ref.817です。
ブライトリング CP-1 Ref.817は、1974年から1975年にかけて、イタリア空軍のヘリコプターパイロット向けに製造されました。
39mmと小さいながらもすっきりとした黒のダイアルは視認性に優れ、機能性第一に作られたことがわかります。
オリジナルブレスレットには日本製の伸縮性メタルブレスレットが採用されました。
ムーブメントは手巻き式17石のバルジュー236を搭載しています。
両方向回転式のベゼルはアルミニウム製で風防はアクリル風防。
ケースはステンレススチール製で、ケースバックはスクリュー式です。
ケースバックに彫られている文字「E.I.(Esercito Italiano)」は「イタリア軍」を意味しています。
500個から1000個製造されたと言われていますが、現在確認されている個体は31個しかありません。
現存数が少ないのは、発光塗料に使われたラジウムが禁止されたため、その多くが破壊されたからだと言われています。
そして2016年、イタリア国防省はさらに40個のブライトリングRef.817を競売にかけました。
政府が時計を直接競売にかけるのはとても珍しいことです。
この40個はヘリコプターパイロットではなく、空挺部隊に支給されていました。
そんな理由から、この40個はイタリア空挺旅団「Folgore(フォルゴーレ)」の名前をとって、「Folgore Forty(フォルゴーレ・フォーティ)」という愛称で呼ばれています。