チェコスロバキア軍のパイロットミリタリーウォッチ:MAJETEK VOJENSKE SPRAVY(ロンジン・レマニア・エテルナ)

MAJETEKウォッチ


チェコスロバキア(現在のチェコ共和国とスロバキア共和国)空軍向けのパイロットウォッチは、第二次世界大戦前の1930年代から大戦後にかけて、ロンジン、レマニア、エテルナの3社によって製造されました。

このパイロットウォッチのケースバックにはチェコスロバキア軍の官有物であることを示す「MAJETEK VOJENSKE SPRAVY」という刻印が押されており、この刻印の名前から「MAJETEK」ウォッチと呼ばれています。

3社共通の特徴としては、ステンレス製の大きなクッション型ケース、ブラックダイアル、発光処理の施されたアラビア数字インデックスと針、レールウェイミニッツトラックなどが挙げられます。

第二次世界大戦の歴史も少し覗きながら、特徴的な形が目を引くこのパイロットウォッチの魅力に迫ってみたいと思います。

MAJETEKケースバック刻印



ロンジン(Longines)



最初にチェコスロバキア政府に時計を納めたのは、ロンジンでした。

ロンジン「MAJETEK」にはムーブメント別に3つのシリーズがあります。


シリーズ1に搭載されたのは、ロンジンの手巻き式キャリバー15.94。
MAJETEK ロンジンキャリバー15.94



このキャリバーは1900年台初頭の懐中時計に使われていたもので、直径34.7mm、厚さ5.65mmとサイズの大きなキャリバーでした。


シリーズ2に搭載されたのは、ロンジン手巻き式キャリバー15.26。
MAJETEKロンジンキャリバー15.26



1929年に開発されたキャリバーで、世界大恐慌の影響から生産数はごくわずかとなっています。

そのため、シリーズ2は500個しか製造されていません。

15.94との大きな違いはその厚さ。

15.26は厚さ4.5mmと、かなり薄くなりました。


シリーズ3に搭載されたのは、ロンジン手巻き式キャリバー15.68Z。

MAJETEKロンジンキャリバー15.68Z



チェコスロバキア政府の要請に従って開発されました。

サイズはシリーズ2の15.26と同じですが、伝統的な金メッキをやめ、電気メッキが施されました。

シリーズ3は数も一番多く、3500個ほどが製造されました。


ロンジン「MAJETEK」はケースサイズが横40~41mm、縦52mm、ラグ幅24mmと3社の中で1番大きく、別名「Tartarugone(“大きなカメ“の意味)」とも呼ばれています。

MAJETEKロンジン


ケースは2重構造、ケースバックは「はめ込み式」で耐磁性に優れていました。

6時方向にスモールセコンドを配置し、アラビア数字インデックスとコブラ針にはラジウム発光塗料が塗られています。

回転式フルーテッドベゼルを回すと内側のポインターが動き、飛行時間を計測することができました。

初期のダイアルは陶器(エナメル)製で、割れにくくするためとても分厚くできています。

それでも壊れやすいことに変わりはなく、完璧な状態で残っているエナメルダイアルを見つけるのは至難の技です。

ロンジンは後に、壊れやすくコストのかかるエナメルダイアルをメタルダイアルに交換しました。

メタルダイアルは、エナメルダイアルの光沢を再現するために特殊な技術を使って光沢を出してあります。

MAJETEKロンジンメタルダイアル


メタルダイアルのアラビア数字はエナメルダイアルと同じフォントですが、スモールセコンドの上に書いてある「ANTI MAGNETIQUE」のフォントは変更されました。

ロンジン「MAJETEK」はサイズが大きく高コストで壊れやすかったため、チェコスロバキア政府は仕様を大幅に見直すことにしました。

その要請に応じたのが、レマニアとエテルナでした。

レマニア(Lemania)

MAJETEKレマニア


レマニア「MAJETEK」に搭載されたのは、耐衝撃性能インカブロックの付いた17石の手巻き式キャリバー3050。

スモールセコンドがなくなり、スイープ運針のセンターセコンドが採用されました。

スイープセコンドの押さえバネ(friction spring)に小さな石が配置され、丸穴車(crown wheel)が従来方式ながら素晴らしい仕上がりになっているのが特徴です。

ケースサイズは横38mm、縦50mm、ラグ幅22mm、厚さ9mmと、かなり小型化されました。

ケースは1重になり、ケースバックもねじ込み式に変わりました。

フルーテッドベゼルもなくなり、よりすっきりとしたケースデザインになっています。

MAJETEKレマニア


ダイアルもとてもシンプル。

「LEMANIA」のロゴ、アラビア数字インデックス、レールウェイミニッツトラック以外の装飾はなく、視認性に優れています。

アラビア数字とペンシル型の針にはラジウム発光が施されました。

3社の中で唯一市販されなかったモデルです。


エテルナ(Eterna)

MAJETEKエテルナ


エテルナ「MAJETEK」に搭載されたのは、14リーニュ(約31.5mm)15石の手巻き式キャリバー852S。

毎時1万8000回振動、50時間パワーリザーブ付きで耐衝撃性能も付いていました。

秒針はスイープ運針のセンターセコンド。

ケースサイズは横38.5mm、縦48mm、ラグ幅21mmとレマニアとほぼ同じサイズですが、もっと正方形に近い印象があります。

MAJETEKエテルナ


ケースは1重でケースバックはねじ込み式、フルーテッドベゼルもなくシンプルなデザインです。

ダイアルは艶のあるミラーダイアルで、「ETERNA」のロゴ、アラビア数字インデックス、レールウェイミニッツトラック以外、何も装飾がありません。

レマニアと同じく、アラビア数字とペンシル型の針にはラジウム発光塗料が塗られました。


イギリス空軍として戦った「MAJETEK」

MAJATEK 2本の剣マーク


これらの「MAJETEK」ウォッチの中にはごく稀に、11時方向のラグに「クロスされた2本の剣」が彫り込まれているものがあります。

これはチェコスロバキア軍の軍用品に使われていたマークで、イギリス軍の「ブロードアロー」のようなものです。

このマークが「MAJETEK」ウォッチに彫り込まれたのには、次のような経緯があると言われています。

第二次世界大戦中、チェコスロバキアがドイツ軍に占領されると、多くのチェコスロバキア空軍パイロットはイギリスに亡命し、イギリス空軍に参加してドイツ軍と戦いました。

いくつかの「MAJETEK」ウォッチはこうやって、持ち主と一緒に海を渡ったのです。

そして、その勇敢な戦いぶりを称えるために、この「クロスされた2本の剣」が時計のラグに彫り込まれたと言われています。




クッション型ケースが印象的な「MAJETEK」。

その変わった形も魅力的ですが、あまり多くのことが知られていないミステリアスな部分も魅力の1つなのかもしれません。