垂れ咲く藤の房が描く、光のカーテン
フランス・ロレーヌ地方の古都ナンシーで、アール・ヌーヴォーのガラス芸術を切り拓いたのが、巨匠エミール・ガレです。
1904年にガレがこの世を去った後も、その工房は「エタブリスマン・ガレ(ガレ社)」として受け継がれ、1930年代まで数多くの作品を世に送り出し続けました。
本作は1920年頃にガレ社が制作した「グリシーヌ(Glycines/藤)」文の花瓶で、高さ23cmのすらりとした器に、しだれ咲く藤の花房が優雅に描き出されています。
技法:黄・マゼンタ・紫が重なる、多層の被せガラス
本作は、透明なガラスの内側に黄色の色ガラスを被せ、その外側にマゼンタと紫の色ガラスを重ねた、多層構造の「被せガラス(カメオ・ガラス)」でつくられています。
そこへ酸(アシッド)によるエッチングを何度も繰り返し、層ごとに深さを変えて削り分けることで、マゼンタから紫へと移ろう藤の花房と、しなやかな蔓や葉を器の周囲に浮かび上がらせています。
光を透かすと、内側の黄色が温かく輝き、その前に垂れ下がる藤の花が、まるで春の陽射しの中で揺れる光のカーテンのように浮かび上がります。
また、底部のポンテ跡(吹き竿を外した跡)は丁寧に研磨されており、細部に至るまで行き届いた仕上げの確かさを感じさせます。
モチーフ:藤 ― ジャポニスムが運んだ東洋の花
藤は、19世紀に東アジアからヨーロッパへ伝えられた植物で、その優美な花房は、当時のジャポニスム(日本趣味)の流行とともに、西洋の人々を強く魅了しました。
日本美術から多くの着想を得たエミール・ガレにとっても、藤は特に愛したモチーフのひとつであり、ガレ社の作品の中でも代表的な図柄として知られています。
上から下へと流れるように垂れる花房の構図は、器の縦長のフォルムと見事に調和し、見る者の視線を自然に上から下へと導きます。
器の側面に浮き彫りで刻まれた「Gallé」のサインは、本作がガレの工房で制作された正真の作品であることを示す証です。
歴史的価値:ガレの精神を受け継いだ工房の到達点
創始者亡き後も、ガレ社はその美意識と技術を守りながら多層カメオ・ガラスの制作体制を確立し、ガレの芸術をより多くの人々のもとへ届けました。
1920年頃は、時代がアール・デコへと移りゆく中で、ナンシー派の自然主義の美を守り続けた後期の作品群にあたり、今なお世界中のコレクターから高い人気を集めています。
23cmというすらりとした高さは、リビングのサイドボードや玄関、飾り棚の主役として、空間に華やぎと品格をもたらしてくれます。
100年の時を経た「アンダーステート・ラグジュアリー(控えめな贅沢)」を、身近な空間でお楽しみいただけます。
サイズ
高さ 23 cm
状態
目立つ大きな欠け、割れ、傷なく基本的良好な状態です。
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