ロレーヌの秋を掌に収めた、小さな風景画
19世紀末から20世紀初頭にかけて、フランス・ロレーヌ地方の古都ナンシーは、自然そのものを芸術の師と仰ぐ「アール・ヌーヴォー」の一大拠点として栄えました。
エミール・ガレとともにその頂点に立ったドーム兄弟(ドーム・ナンシー)が、1900年頃に制作したのが本作「ペイサージュ・ロラン(Paysage lorrain/ロレーヌの風景)」文の花瓶です。
高さ11.5cm、幅14cmの楕円形の器に、黄金色に色づいた木々と緑の草原、淡い空が広がる秋のロレーヌの情景が描かれ、手のひらにのるほどの小品でありながら、一枚の風景画のような奥行きを湛えています。
1. 素材と技法:空色のガラスに描き出された、秋の光
本作は、無色透明のガラスを二層に重ね、その間に淡い水色のガラス粉末を溶かし込むという、ドームが得意とした手法でつくられています。
さらに器の表面には茶色と緑の色ガラス粉末を溶着させ、酸(アシッド)によるエッチングで木々や草原を彫り出したうえで、エナメル彩で丁寧に描き込んでいます。
小さな器面だからこそ、職人の技量がごまかしなく表れます。本作では、手前の大樹から地平線の木立へと続く遠近感が見事に表現されており、ドームの風景文の完成度の高さを実感していただけます。
2. モチーフ:ロレーヌの秋景色 ― ナンシー派が愛した故郷の風景
ナンシーを擁するロレーヌ地方は、なだらかな丘と森、草原に恵まれた土地であり、その身近な風景はナンシー派の芸術家たちにとって尽きることのない着想の源でした。
ドームの風景文の中でも、季節ごとの情景を描いたシリーズは特に人気が高く、秋の風景は黄金色の木々と緑の草原のコントラストが美しく、夏の森や冬景色とはまた異なる、穏やかで温かみのある魅力を放っています。
器を回すと、木々が途切れることなく続き、まるでロレーヌの草原を散策しながら、移ろう秋の光を眺めているかのような感覚を味わうことができます。
3. 造形とサイン:楕円形のフォルムと確かな署名
ふっくらとした樽形を上から押しつぶしたような楕円形のフォルムは、正面から見ると横長の画面となり、風景画を鑑賞するのに理想的なかたちです。
底面には、黒エナメルで「DAUM NANCY」の銘とロレーヌ十字が描かれており、ドーム兄弟の真作であることを示しています。
1900年頃といえば、同年のパリ万国博覧会でドームがグランプリを受賞し、その名声が国際的に確立された、まさに黄金期にあたります。
書斎の棚や玄関、リビングのサイドテーブルなど、限られたスペースにもさりげなく飾ることができ、一輪の花を挿すだけで空間に季節の彩りを添えてくれることでしょう。
サイズ
状態
黒エナメルによる署名:DAUM NANCY、ロレーヌ十字があります。
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