白鳥が憩う湖畔 ― 掌の中の静かな風景画
19世紀末から20世紀初頭にかけて、フランス・ロレーヌ地方の古都ナンシーは、自然の姿を芸術の源とする「アール・ヌーヴォー」の一大拠点として栄えました。
エミール・ガレとともにその頂点に立ったドーム兄弟(ドーム・ナンシー)が、1900年頃に制作したのが本作「白鳥のいる湖」文の花瓶です。
高さ8cmという小さな器の周囲に、白鳥が静かに浮かぶ湖と、その岸辺に広がる木立の景色が描かれ、手のひらの上に一幅の風景画を載せているかのような趣があります。
技法:酸と彩色が生み出す、湖畔の奥行き
本作は、酸(アシッド)によるエッチングで湖畔の木々や岸辺の輪郭を彫り出し、その上から彩色を施すことで風景を描き上げています。
エッチングによって生まれるわずかな凹凸が光を受けて陰影をつくり、そこに重ねられた色彩が、湖面の揺らぎや岸辺の木立の重なりを立体的に浮かび上がらせます。
「削る(引き算)」と「彩る(足し算)」。この二つの工程の組み合わせによって、小さな器面の中に、近景から遠景へと続く確かな奥行きが表現されているのです。
モチーフ:白鳥と湖 ― 優美さと静寂の象徴
白鳥は、ヨーロッパにおいて古くから優美さや気品の象徴とされ、アール・ヌーヴォーの芸術家たちにも好んで取り上げられたモチーフです。
ドームは風景文を得意とし、季節や時間の移ろいを器に閉じ込める作品を数多く手がけましたが、水辺に生き物を配した情景は、その中でも物語性を感じさせる魅力的な主題です。
器を回すと湖畔の景色が途切れることなく続き、白鳥の姿を探しながら眺めるひとときそのものが、この作品の楽しみ方となります。
底面には彩色で「DAUM NANCY」のサインと「ロレーヌ十字」が記されており、本作がナンシーの工房で制作された正真の作品であることを示しています。
歴史的価値:名声が世界に響いた時代の小品
1900年頃は、同年のパリ万国博覧会でドームがグランプリを受賞し、その名声が国際的に確立された、まさに黄金期にあたります。
限られた面積に風景を描き込む小品は、職人の技量がそのまま表れるため、コレクターの間でも根強い人気を誇ります。
8cmという愛らしいサイズは、書斎の机や飾り棚、窓辺など、日々の暮らしのすぐそばに置いて楽しむのに最適です。
120年以上の時を経た「アンダーステート・ラグジュアリー(控えめな贅沢)」を、身近な空間でお楽しみいただけます。
サイズ
高さ 8 cm
状態
目立つ大きな欠け、割れ、傷なく基本的良好な状態です。
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