掌に収まる、ナンシーの野に咲く光
1900年代初頭、フランス東部ロレーヌ地方の古都ナンシーは、「自然」を芸術の師と仰ぐアール・ヌーヴォーの一大拠点でした。
エミール・ガレとともにナンシー派を牽引したドーム兄弟(ドーム・ナンシー)が、1905年頃に制作したのが本作「リズロン(Liserons/ヒルガオ)」文の花瓶です。
高さ11.5cmという小ぶりな器の中に、野に咲くヒルガオの一瞬の表情が、やわらかな光とともに封じ込められています。
技法:色ガラスの粉末が生む「霞」のグラデーション
本作は、透明なガラスを二層に重ね、その間に黄色と紫の色ガラス粉末を溶かし込むという、ドームが得意とした手法でつくられています。
さらに表面には緑と白の粉末を焼き付けており、層ごとに異なる色が重なり合うことで、夜明けの空のような色彩の揺らぎが生まれています。
その上で、酸(アシッド)によるエッチングで器の周囲をぐるりと彫り進めてヒルガオの蔓と花を浮かび上がらせ、エナメル彩で花びらや葉に色を差しています。
「溶かし込む」「削る」「描く」という三つの工程が重なることで、小さな器でありながら、奥行きと立体感を備えた一つの風景が完成しているのです。
モチーフ:ヒルガオ ― 名もなき野花に美を見出す眼差し
ヒルガオ(リズロン)は、フランスの田園や道端に自生する、ごく身近な野の花です。
華やかな園芸種ではなく、こうした素朴な草花にこそ美を見出したことが、ナンシー派の審美眼の核心でした。
蔓を伸ばしながら器を一周する構図は、どの角度から眺めても異なる表情を見せ、光の差し込み方によって花の色合いが刻々と移ろいます。
器に浮き彫りで刻まれた「DAUM NANCY」のサインと「ロレーヌ十字」は、本作がナンシーの工房で仕上げられた正真の作品であることを示す証です。
歴史的価値:小品にこそ宿る、円熟期の技
1905年頃は、ドームがガラス粉末による色彩表現と、酸・エナメルによる装飾技法を高い水準で融合させた円熟期にあたります。
小さな器は面積が限られるぶん、構図の密度と職人の技量がそのまま表れるため、コレクターの間でも根強い人気を誇ります。
11.5cmというサイズは、書斎の机やリビングの飾り棚、窓辺など、日常のすぐそばに置いて楽しむのに最適です。
一輪の野花を挿すもよし、器そのものを一つの作品として眺めるもよし。120年の時を経た「アンダーステート・ラグジュアリー(控えめな贅沢)」を、身近な空間でお楽しみいただけます。
サイズ
高さ 11.5 cm
状態
目立つ大きな欠け、割れ、傷なく基本的良好な状態です。
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