オールドバカラ(baccarat)から現代のバカラグラスに至るまでの経緯

1.バカラクリスタルの仕事の根底

バカラの箱とグラス

バカラの1764年設立当初の銘柄は無銘なんです。

しかも、会社として商業登録をしっかりと確立されたのは1860年と、約100年間は数多くのガラス工房の1つであったということなんです。

クリスタルガラスというのは、どんな状態のものであっても普通のガラスとは重さが違います。

そして、そのクリスタルガラスで作っていたバカラはワイングラスやデキャンタのようなガラス食器ばかりではなく、窓にはめ込む窓ガラスさえも作っていました。

これは、どのようにガラスをガラス以上のものに作っていけるかの試作だったのだと思います。

そして、何年も費やしてとうとうクリスタルガラスという現代にまで輝きを残す最高のガラスが作り上がったんですね。

その時代を生きていたわけでもないし、その頃の詳細な歴史書があるわけでもないので確かなことは分かりませんが、今こうして思うとバカラのクリスタルガラスをここまで有名なものに出来たのは、ルイ15世のおかげではなく、ガラス職人一人一人が誠心誠意心を込めてクリスタルガラスを作り上げてきたおかげなんですね。

2.バカラの進化してきた足跡

バカラグラス baccarat パルメのロックグラス

皆さんバカラのアシッドエッチングという技法は知っていますか?

現代のバカラとしても有名な定番商品ローハンシリーズや、ミケランジェロやエリザベートなどのオールドバカラとして挙げられるような商品でお分かりになると思うのですが、磨りガラスのような形に模様を描いていく技法の1つなのですが、この「アシッドエッチング」は1855年のローハンシリーズが最初期になるものです。

当初、フッ化水素酸に浸してこの磨りガラス様に模様をクリスタルガラスへと描き出していましたが、1962年時点でこの方法での模様の描き方を製造中止しました。

その背景には、ガラス職人たちへの健康的視点から、発がん性や皮膚炎などの発症の多さがあります。

フッ化水素酸という名前の通りこれは化学物質です。

人体に影響がないわけがありませんが、ガラス職人たちはそれを承知の上で危険を犯してまで素晴らしい商品を作り出してきたんです。

でも、これはバカラだけではありません。

その当時のクリスタルガラスを扱ってきたクリスタルメーカーはどこもこの危険を犯してきました。

そして現代は、この磨りガラスを作るためにサンドブラストが多く使われるようになりました。

サンドブラストであれば、大きな病気などの危険性がグッと少なくなりますので、素晴らしい進化だと思います。

3.バカラがバカラである必要性

バカラのワイングラスの座面baccaartのエッチング

バカラが1764年からずっと継続して現代まで会社が残ってくるには、とても大変な苦労があったと思います。

同じようにクリスタルガラスを取り扱うガラス工房は後を絶たずに進出してきました。

そして、今も尚続いているメーカーもあれば、廃れていったメーカーも数多くあります。

しかし、バカラにはルイ15世にガラス工房の設立を承認してもらったという歴史があります。

そもそもは、フランス東部ロレーヌ地方統主「モンモランシー・ラヴァル」がガラス業界参入によって経済復興しようと考えたことがバカラの歴史の始まりです。

バカラは、確かに後ろ盾にルイ15世がいました。

そのおかげで、上流階級の客層を得やすい状況を確保できたと思いますが、そこに頼るだけでなく日頃から研究や努力、技術の安定化を図ってきたからこそ現代にまで残るクリスタルガラスの名門になったんです。

ルイ15世を始めとする多くの上流階級を顧客としてきたバカラが、もし簡単に傾いてしまうようなことがあったら、それこそルイ15世の顔を潰してしまうことになります。

こんなことにならないように、バカラは多くの職人をヘッドハンティングしたりもしてきました。

やはりこれは、「バカラ=ルイ15世のお膝元」という意地や誇りがあったからでしょう。

この誇りを維持するためには、並々ならない痛手も負ってきたはずです。

しかし、1860年に商業登録できた時には、既にバカラはルイ15世の後ろ盾を持たなくても、立派なクリスタルガラスメーカーとして歩き出すことが出来ました。

それでも尚、バカラはルイ15世への敬意を忘れていないから、どこかのメーカーとの合併などをしないでバカラとして頑張ってきているんです。

バカラがバカラである必要性は、その商品に対するプライドですよね。

どんなに小さな商品であっても、バカラであるという商品に対する誇りがバカラでなければならない必要性なんだと思います。

 

4.現代のバカラ正規店はオールドバカラを理解できているのか

バカラbaccarat rohanデカンタ

今私達が絶対に偽物を手にしたくない場合、バカラ正規店や質店などで購入する他ありません。

オークションなどで手に入れる場合、もし偽物を掴まされてしまっても訴訟をすることをしなければ泣き寝入りするしかありません。

では、そのバカラ正規店ではどの程度までオールドバカラを理解しきれているのでしょうか。

バカラをコレクションし始めると、誰もがオールドバカラに手を出したくなってしまうものです。

しかし、バカラ正規店には現行の商品しか置いてありません。

オールドバカラと言っても、ここ数年程度のものしか取り扱っていません。

実際にバカラ正規店に2002年頃の商品について伺ってみました。

画像はローハンのデキャンタですが、伺ったのはシリーズ「オノロジー」のデキャンタ、バカラのシンボルマークがついていないものについて画像を見て頂いて判断して頂きました。

その時に頂いた答えが、「店舗だけでなく、バカラ本社にある情報も検索をしてみても良いですか?」とのことでした。

2017年現在、2002年の商品でさえ把握できていないということが分かりました。

これはオールドバカラを手に入れたいと考えた場合、バカラ正規店ではもう難しいということが分かりました。

もし100%本物のオールドバカラを手に入れたいと考えるのであれば、私達のようなアンティークショップ(信用の出来る)や質店などでしか確かなものは手に入らないのかも知れません。

5.オールドバカラのこれからの未来

バカラグラス アルクールのロックグラス

1764年に始まり1860年に商標登録されたバカラです。

250年以上続いているバカラが、これからも多くの愛好者の皆さまの手を渡り歩いていくことを考えると、どの商品にもこれまで以上の愛情を持って使っていかなければならないと思います。

だって、今まで以上に年数を経ていくわけですよ?

50年先には300年の歴史がある商品になるんです。

創業初期の頃の商品なんて既に国宝級と考えても良いと思います。

これからを生きる私達には、そんな文化財的な商品を大切にしながらも、その役割を全うさせてあげる義務があると考えています。