クロノグラフ腕時計 アンジェラス(Angelus)の歴史

アンジェラス社の歴史 はじめに

アンジェラス社は、優れたクロノグラフとマルチコンプリケーションの腕時計、長いパワーリザーブを備えたマルチディスプレイ旅行時計やアラームウォッチを作成したことで高い評価を得た会社です。

その独自に開発されたムーブメントや腕時計は、今でも世界中のコレクターたちに求められています。

アンジェラス社は1891年、グスタフ・シュトルツ(Gustav Stolz)とアルバート・シュトルツ(Albert Stolz)兄弟によって、高級時計製造の地として知られていたスイスのヌーシャテル州、ル・ロックルで創業しました。マレ通りにある小さな一室でスタートしましたが、1898年には時計メーカーとして知られるようになり、3番目の兄弟であるチャールズ・シュトルツが加わります。

 

アンジェラス(Angelus) 独自のムーブメント

1902年、アンジェラス社はパリの国際博覧会で金メダルを受賞して成功を収めると、シュトルツ兄弟は15名の熟練した職人を雇えるようになり、自社での仕事がますます増えていきました。

当時の時計製造はまだ分業制が多かったのですが、兄弟たちは自社独自のエボーシュ(未完成のムーブメント)を作るために工場を作ることを決心します。

同社はリピーターとクロノグラフを含む複雑なムーブメントを得意とし、その優れた職人技術は様々な国際見本市や博覧会で賞を受賞します。

1905年にはベルギーの国際博覧会で金メダル、1914年にはベルンのスイス国際展示会でグランプリを受賞しました。

同年、グスフ・シュトルツは有名な時計メーカーのル・ファー(Le Phare)を引き継ぐとともに、アンジェラス社での任務も続け、2つの会社の関係をより強めていきます。

ル・ファーのムーブメントが時々アンジェラスのクロノグラフ懐中時計に見られるのはそのためです。

 

アンジェラス(Angelus) リピーターとアラーム

第一次世界大戦によって発展は妨げられましたが、同社は盲目の人たちのためにリピーター付きの懐中時計の生産を止めませんでした。

戦争によって顔を負傷した帰還兵たちに提供するためでした。

1920年代に入ると、時計製造業界では暗闇で光るラジウム素材を使用した蛍光塗料の開発に乗り出します。

暗闇でも時間を読めるようになったことで、アンジェラスの得意分野だったリピーター付き懐中時計の人気は落ちていきました。

しかし同社はアラーム付きの時計を生産し始めることで、大恐慌を乗り切ることができたのです。

 

アンジェラス(Angelus) 世界最小への挑戦

1925年、アンジェラス社は初めて自社製のモノプッシャー・クロノグラフ腕時計に着手します。

初めて作られたものは直径29.3mmと31.6mmのもので、クラウンを一度押せば動作するというものでした。

そしてこの腕時計は翌年、アメリカのフィラデルフィアで開催された国際博覧会で金メダルを受賞します。

1929年、アンジェラス社のムーブメントはル・ロックル展望台から、精度における第一級の証明書と、複雑さにおける証明書を3つずつ授与されました。1930年には、8日巻きムーブメントの中で世界一小さく(32mm×21mm)、一週間に±1分の誤差のみという正確さを持つ時計を販売し始めます。

このムーブメントは実際、10日間のパワーリザーブの潜在能力を持っており、今日においても8日巻きムーブメントでは世界一の小ささを誇っています。

1935年、アンジェラス社は2プッシャー付きクロノグラフ腕時計を作り始めます。

これは直径29.33mmと33.84mmで、30分または40分積算計のついたものでした。

最初の2プッシャー付きクロノグラフは1933年にブライトリング社が作り始めましたが、コンプリケーションが搭載されたクロノグラフは1935年から、アンジェラス社とユニバーサル社によって広められました。

アンジェラス キャリバーSF240

アンジェラス Foursome

アンジェラス Foursome

1936年、アンジェラス社は世界最小8日巻きアラーム付きムーブメントの

「キャリバーSF240」に着手します。

 

このムーブメントはアラーム機能なしのものも作られました。

そして同年、日にちと曜日と月のフルカレンダーが付いた初めてのアラーム付き時計Dateclockを作ります。

この時計はコンパクトで簡単に折りたため、当時増えつつあった海外出張者や、電車や車で長距離を移動する人々にとってとても持ち運びやすいものでした。

そして翌1937年には8日間のパワーリザーブと自動カレンダー、気圧計、温度計を備えた4面のコンパクト卓上時計Foursomeが作られます。

 

アンジェラス(Angelus) キャリバーの開発とクロノデイト

1940年、ハンガリー空軍がアンジェラス社のクロノグラフを採用します。

この腕時計は当時にしては大きな38mmのスチール製ケースに、先の尖ったラグがついたものでした。

文字盤は他の軍用クロノグラフと同様、飛行機のコックピットのような薄暗い場所でもよく見えるように設計されており、黒地に蛍光塗料の塗られた大きなアラビア数字と針がついていました。

この時計に使用されたキャリバー215は、バルジュー72やロンジン13ZNといった伝説的クロノグラフと並ぶ価値のあるもので、シンプルで頑丈かつ最小限の力で動作し続けるというものでした。

1941年、創立50周年を記念して、アンジェラス社はル・ロックルのピアジェ通りに新しい工場を設立します。この時には、約90名の従業員を雇っていました。

そしてこの機会に、Naveoという驚くべきミニ時計を発表します。

船のホイールの形を模したこの時計は8日間のパワーリザーブ、自動カレンダー、気圧計、温度計、湿度計を有していました。同年、アルバート・シュトルツの息子であるアンドレが会社を引き継ぎます。

その後アンジェラス社は、世界初の日付表示付きクロノグラフ腕時計に着手し、時計製造業界にセンセーションを巻き起こします。1943年以降「クロノデイト」と呼ばれるようになったそのクロノグラフ腕時計は直径32.8mmのキャリバーSF217を搭載し、17または19ジュエルと45分積算計が付いていることが特徴でした。

クロノデイトは、中央の針が文字盤の外周に記載された日付を指すことで日にちを表示し、曜日と月はそれぞれ6時と12時の位置にある窓に表示されました。クロノデイトは瞬く間にアンジェラス社の売り上げ第1位となり、スイス製クロノグラフの象徴ともなりました。

アンジェラス カレンダー、アラーム、ムーンフェイズ付き時計の数々

アンジェラス 1945 Sixsome

アンジェラス Sixsome

1943年にはパネライがアンジェラス社のキャリバーSF215を採用し、アンジェラス社はウォータープルーフのスポーツウォッチに着手します。直径40mmというサイズは当時非常に目立つものでした。

1940年代後半になると世間では飛行機での海外出張や大陸間の移動がますます盛んになり、アンジェラスはそれに合わせた時計を次々と発表します。

まずはFoursomeに湿度計とコンパスを追加したトラベル用卓上時計のSixome、続いてフルカレンダーとアラームにムーンフェイズ表示が付いた8日巻きムーブメントのFolioluxe、そしてワールドタイムと日付表示の付いたアラーム付き旅行時計のMultitimeなどがあります。

 

1948年、27mmというサイズで30分積算計付きの新しいクロノグラフムーブメント「キャリバーSF250」を開発します。この発明はブランドの代表作であるChrono-Datoluxeへの道を開きました。

Chrono-Datoluxeは、デジタル日付表示を持つ世界初のクロノグラフ腕時計でした。

そして同時期に、12時の位置の窓に日付と曜日が表示される、ムーンフェイズ表示付きのクロノグラフ腕時計も発表しました。

その後は日付表示機能を持つ自動巻きムーブメントを開発することで、ますます薄い腕時計を作り出していきます。

1955年、パネライがイタリア海軍のために作った腕時計に、アンジェラス社の8日巻きキャリバーSF240が採用されます。この時計は9時の位置にスモールセコンドが付いたものでした。

翌1956年には、アラームと日付表示の両方が付いた世界初の腕時計Datalarmが発表されます。

日付は3時の位置に表示され、ベゼルのチャプターリングには24時間でワールドタイムが表示され、文字盤の内側には24の都市名とタイムゾーンが表記されました。

1958年、アンジェラス社は初めての自動リピーターならびに防水性リピーター付き腕時計のTinklerを発表します。

Tinkerのリピーター機構は同社の防水性クロノグラフとよく似たポンプ式プッシャーによって起動するもので、毎時と15分毎に鳴ります。この時計は100本しか生産されなかったため、その後は時計愛好家たちに高く追い求められています。

1960年、アンジェラス社は20世紀最後のクロノグラフを作ります。それは医者のためのモノプッシャーで、文字盤外周の12時から3時までの位置に血圧と呼吸数の数値が記載されたものでした。

 

アンジェラス 21世紀の復活

1970年代、スイスの時計産業が大きな打撃を受けたクォーツ危機により、アンジェラス社は生産を停止します。そして30年以上の沈黙のあと、革新的な自動巻きムーブメントの製造者として知られるラ・ジュール・ペレット社(La Joux Perret)によって2011年にアンジェラス社は復活しました。

そして4年の歳月を経て2015年にバーゼルの見本市で発表されたのが、以前のクロノグラフとは全く見た目の異なる「U10 Tourbillon Lumière」です。

昔のトラベルクロックから着想を得たというこの腕時計は、60年代のテレビのような形をしており、サファイアガラスのケースにはムーブメントから切り離された大きなトゥールビヨンを見ることができます。

トゥールビヨンの構造は非常に前衛的ですが、残りのムーブメントは18世紀の懐中時計に由来するクラシックで伝統的なものとなっています。

今日のアンジェラス社は高い技術を持つ職人を多数雇用しており、ムーブメントや時計の設計、製造、仕上げ、組立、テストまでをすべて自社で行っています。

ケースや文字盤、針などムーブメント以外の部品は、スイスの高級時計産業における最高のサプライヤーから供給してもらっています。

伝統的な方法と、超近代的なメソッドを組み合わせて製造を行っているため、長年の技術と道具によって繊細な仕上げが施されるとともに、プログラム化された半自動機械も用いられています。

最新のムーブメントは、最新のCADを用いて設計されており、各プロセスの間にはデジタルセンサーや顕微鏡、フォトカメラ、ゲージ、プロジェクターなど様々な計測機器を使って綿密な品質管理が行われています。

アンジェラスの製造チームは常に革新的な努力を続けており、新しい技術の研究と調査を行っています。