腕時計が自動で修正!?パーペチュアルカレンダー,永久カレンダー,トゥールビヨン,ムーンフェイズの構造をご紹介

機械式時計の最高品質構造『永久カレンダー』はどのようにして動くのか?



機械式時計は、複雑なメカニズムによって作られていますが、
中でも特に複雑だと言われている3つが、
「永久カレンダー」、「トゥールビヨン」、「ムーンフェイズ」です。

これから、この3つの複雑機構についてご説明したいと思います。

今回は、まず「永久カレンダー」から。

 

手元の腕時計が日付・曜日を常に表示してくれる機能はとても便利ですよね。
ですが、カレンダーは、月によって日数が違ったり、4年に一度うるう年があったりと、
けっこうややこしいものです。

 

そんなカレンダーを機械式時計で正確に表示する方法、
それが「永久カレンダー」です!パーペチュアルカレンダーとも呼ばれています。

 

 

地球の公転によって定められた太陽年は、365日と5時間48分46秒です。
ですが、暦は整数で示さなければならないため、うるう年が制定され、
4年に1度、2月の日数を1日多くして調整しています。

 

そんな複雑な暦の仕組みを、電子プログラムではなく、
機械の仕掛けで網羅して表示してしまうのが、「永久カレンダー」というわけです。

 

ところが、それでも毎年わずかではありますが遅れてしまうので、
下2桁が00になる年はうるう年としない、という例外が定められました。
さらに、400で割り切れる年だけはさらなる例外として、うるう年としない、ということも!

これにより、400年の間に3回だけ、うるう年でなくなる年が発生します 。

 

この例外中の例外の年が次に現れるのが、2100年になります。

 

ここだけは「永久カレンダー」でも自動で調整することができないので、
現在存在している永久カレンダーは、2100年2月28日まで自動で「永久カレンダー」
であり続けますが、その時点で時計師に表示の修正をしてもらう必要があるんですよ。

 

それでは、その複雑なメカニズムについて、ご説明していきましょう!
 


時計の中に組み込まれたカレンダー機構の中でも、右下に位置する、
上下に重なり合った2つのカムが、最も重要な役割を果たしています。
こちらは、4年間の月を調整するカムと、4年で1周するように48枚の歯が
切られたカムになります。

 

下側にある、48枚の歯車は、右上の日付表示用の日送りカムとかみあっています。
日送りカムが1回転(=1か月)すると、48枚のカムが1歯動くようになっています。

 

月を調整するカムは、歯によって切込みの深さが違います。
これは、それぞれ日数が異なる月を表しています。
歯の浅い順に、大の月(31日)、小の月(30日)、うるう年の2月(29日)、
平年の2月(28日)になります。

 

この歯の溝の深さによって、日送りレバーが作動して、必要な日数分送ることになります。
たとえば、切込みのもっとも深い28日なら、3日分日付を先送りすることになります。

 

12枚の歯に切られた西暦カムは、48枚歯のカムとかみ合い、
1年たつごとに西暦表示を動かします。

 

次は機械式時計の3大複雑機構ともいわれるメカニズムの中から、

トゥールビヨン


について、ご紹介したいと思います。

 

かつて船で使われていた高精度なクロノメーターは、船室に固定されていたので、いつも同じ姿勢が保たれていました。

 

ですが、懐中時計など、持ち歩いて使う時計は、そのときによって時計の姿勢が変わってしまいます。縦になったり、横になったり、12時が上になったり、6時が上になったり。

 

それによって、時計の仕組みの心臓部である脱進機・調速機が重力の影響を受け、精度が狂い、誤差が生じてしまっていました。

 

このように、時計の置きかたによって精度が狂ってしまうことを、「姿勢差」といいます。

 

この姿勢差をどうにかしてなくしたい。そう考え、実現したのが、フランスの時計師ブレゲでした。

大きな時計メーカーとなったブレゲ(Breguet)の時計は、今でもすばらしい高級時計として世界中で愛されていますよね。

 

さて、そのブレゲが考案したのは、このような仕組みでした。

姿勢差によって脱進機と調速機が誤差を生じてしまうならば、この2つの機構をまとめ、常時回転させておけばいい、と考えたのです。

 

これを、渦巻きを意味するフランス語「トゥールビヨン(Tourbillon)」と名付け、ブレゲは1801年に特許を取得したのでした。

 

 

では、その仕組みを詳しくご説明しましよう。

トゥールビヨンでは、脱進機・調速機の一式をキャリッジと呼ばれるかごに収めて回転させます。

 

通常の時計では、歯車が1番車→2番車→3番車→4番車→脱進調速機という順に位置し、連なり合って動力を伝えていっています。

トゥールビヨンでは、キャリッジが4番車の上に設置され、4番車は下の板に固定されます。そして、3番車がキャリッジの回転軸のカナ(小さな歯車)にからみ、キャリッジを回転させる動力を伝達するのです。

 

その中で、ガンギ車と同じ軸にあるガンギカナは、4番車の歯車とからんでいます。ガンギ車が回転するとガンギカナも回転し、固定された4番車の周囲を回ることになります。その動きに合わせ、キャリッジの回転が調速されるようになっています。

 

現在の時計では、キャリッジが1分間に1回転するようになっています。スモールセコンドとしても機能します。

 

 

トゥールビヨンを作るには、キャリッジをはじめとするパーツすべてを軽く丈夫にしなければなりません。また、キャリッジが回転するので、通常の時計に比べ、調整が大変難しくなっています。

 

そのため、トゥールビヨンの調整は、最高技術をもつ時計職人、専門の工房にしか行うことができません。また、時計の価格も1000万円超の高額になっています。

 

現在では、ヒゲゼンマイの材質がよくなり、時計の精度は飛躍的に向上しています。なので、トゥールビヨンの魅力は、実用性というよりは、複雑なメカニズムの動きに対する憧れ、敬愛の念だといえるでしょう。

200年以上前に発明されたメカニズムのみごとさを、実物を見て、ぜひ感じてみていただきたいものです。


最後の1つは

ムーンフェイズ


になります。

文字盤に、月の満ち欠けを表示するメカニズムです。半円の表示窓に月の絵が表示され、その時点での大きさ・形を教えてくれます。

 

月は、古くから人間の生活に密接に結びついていたため、懐中時計の時代から、このムーンフェイズという機構は確立していました。

 

特に、航海には月の満ち欠けを知ることが不可欠でした。潮の満ち引きは月の引力によって起こるからです。雨や曇りの日など月が見えない日でも、このムーンフェイズがあれば、月の満ち欠け状況がよくわかります。




ブレゲが18世紀後半に作った時計に用いられたムーンフェイズ機構は、すでに現在のものと同じ仕組みだったそうです。

 

 

では、その仕組みを見てみましょう。

 

月の満ち欠けの周期は、約29.5日です。ですが、歯車では0.5歯というはんぱな歯は作ることができないので、2倍の59日で1回転する歯車を使います。ディスク上に2つの月を描き、文字盤上は半円分(29.5日分)だけ見えるようにしています。

なんてうまくできた仕組みなのでしょうね。

 

ただ、実際の月の周期は、29.530589日なので、切り捨てられた端数分だけ数年に1日分の誤差が生じます。そこで、月齢表などを参考にして修正する必要が出てきます。

 

また、最近では、この古くから用いられているのとは異なるメカニズムを使って、ムーンフェイズ(月の相)をよりリアルにビジュアル化したものも登場しています。

 

 

情報が様々な手段で手に入る現在では、腕時計で月の満ち欠けを表示させる必要は、はっきりいってほぼないでしょう。それなのに、ムーンフェイズは今でも大変人気があります。高級時計から一時期姿を消していたのに、復活し、再び定番ともなった機構なのです。

 

ただ正確な時を知るだけではなく、太古から変わらない自然の営みを感じることのできるムーンフェイズに、ロマンを感じるからかもしれませんね。

 

いかがでしたでしょうか。

とても緻密で複雑なメカニズムですよね (>_<)

ですので、永久カレンダー、トゥールビヨン、ムーンフェイズ、の修理や調整も、
熟練の職人さんでないと難しいようです。

 

ですが、機械式時計の表示を見ながら、
あの歯車がこうやって動いて表示が変わったんだな、
とわかると、いっそう魅力的に感じますね。