クロノグラフとは?クロノグラフの歴史と腕時計の複雑機構や使い道を説明します。

クロノグラフ腕時計の文字盤

クロノグラフ腕時計は、長い間人気があって需要の高い時計の1つですが、充分に活用されておらず誤解されているコンプリケーション(複雑式時計)の1つでもあります。

若い男性の多くがクロノグラフを求めますが、 研究によるとこれらの消費者の大部分はその使用目的を理解していなかったり、機能を操作する方法を知らなかったり、単にそれを使用していなかったりするようです。

どのコンプリケーションも基本モデルと比較すると価格は大幅に上昇することが多いですが、他のコンプリケーションと違い、日付機能のあるクロノグラフは今日の腕時計で最もよく使われているものとなっています。

※コンプリケーション(時計の中に高度な技術が込められている時計)


分かりやすく代表的なクロノグラフ腕腕時計といえば


・ロレックス→デイトナ
・ブライトリング→ナビタイマー
・オメガ→シーマスター
・ゼニス→モナコ



文字盤の中に2、3の小さなダイヤルが入ってるものをクロノグラフと言います。


混同しやすい言葉としてクロノメーターというのがあります。

このクロノグラフをクロノメーターと混同してはいけません。

クロノメーターは、スイス製の時計にCOSC(スイスクロノメーター検定協会)認定ラベルが貼られており、正確さと特定の規格にパスしたことが証明されているものです。

クロノメーターの詳細はこちら

 


これは主にブライトリングが100%クロノメーターを公言したことによりクロノグラフとの
区別がつきやすいかと思います。



クロノグラフは、素人の言葉で言うと、ストップウオッチやタイマーのお洒落な呼び方です。

一般に、プッシャーと呼ばれる1~3つのボタンのどれかを押すことで、時計を邪魔することなくクロノグラフ機能をスタート、ストップ、リセットします。

一度に30分までしか記録できないものもあれば最大12時間も記録できるものもあります。

記録された時間は、時計のダイヤル盤にあるサブレジスター(カウンターともいう)から読み取ることができます。

これらのレジスターは、プッシャーが押されると経過する秒数、分、時間をカウントします。この文章を通じてクロノグラフの理解を深めるとともに、歴史的な出来事と機能について説明します。

クロノグラフの歴史


クロノグラフとは、「時間」を意味するギリシャ語の“クロノス”と、「書く」を意味する“グラフ”を合わせた「タイムライター」を意味します。

これはしばしば、なぜ「書く」という言葉があるのか人々を混乱させますが、最初のクロノグラフは指針に付けられた小さなペンで文字盤にマークを付け、マークの長さで経過時間を測るというものでした。
ルイ・モネは、最初のクロノグラフとなるものを1815年に発明し、1816年に完成させました。

モネはクロノグラフを、天文学用機器と一緒に使うだけのものとして発明しました。

そしてこの創造的な発明にもかかわらず、実際に市場で売り出すための最初のクロノグラフを作ったのはニコラ・マチウー・リューセックという男でした。

1821年にルイ18世によって任命されたリューセックは、ナポレオンの忠実な信者ではないとして公に知られていたため、王から尊敬を集めたフランスの時計メーカーでした。

1817年1月31日、ルイ18世は以下の王立令状に署名しました:

「本日1817年1月31日、パリの王は、ニコラ・マチウー・リューセックの良き人生と道徳的行動を十分に認め、彼が時計職人として得た評判が、彼に恵みと保護を与えることを望みます。

このため陛下は、リューセックがすべての名誉、特権およびその他の利益を享受できるように、彼に時計職人の称号を付与します。陛下は、彼がすべての集会およびすべての公の書類で、この称号を使用することを望み・・・」

以来、フランス全土で王の時計職人として知られたリューセックは、王の趣味である競馬の計測ができるコンプリケーションを開発するよう依頼されました。

その結果スポーツの世界は変わり、世界中のさまざまな場所で使われるようになりました。

レースはもはや、テープを速く切るだけで勝つわけではありません。

クロノグラフのおかげで、今やすべてのレースがタイムを計られ、記録は絶えず
更新されています。

その後、1844年初めにアドルフ・ニコルという名前の男が、リューセックのクロノグラフの改良版を作りました。これはリセット機能によって連続測定が可能となったものでした。

 

クロノグラフにタキメーターの追加

20世紀初めに、クロノグラフは時計界に旋風を巻き起こしました。

時計メーカーは、固定ベゼルによってタキメーターとして動作する時計を販売し始めました。

タキメーターとは、着用者が移動時間に基づいて速度を計算したり、速度に基づいて距離を測定することができるものです。

最初の回転ベゼル式タキメーターは、1958年にホイヤー(現在のタグ・ホイヤー)によって導入されました。

タグホイヤーのタキメーターの画像

タグホイヤーのタキメーター



ライト兄弟の成功が世の中を飛行に魅了した後、クロノグラフの需要はかなり増しました。

クロノグラフは航空機製造に役立ちますが、他の産業(特に精密さや計時を必要とするもの)もそのようなメカニズムから恩恵を受けることができるのは当然のことです。

 

クロノグラフは競馬や航空業に使われるだけでなく、今では自動車レース、オリンピックスポーツ、そして海軍や潜水艦のナビゲーションにも導入されています。
多様な需要のために、時計産業は様々なクロノグラフを生産し始めました。

秒針を素早くリセットすることができるフライバック、複数の秒針を独立してストップ・スタートできるラトラパンテ、そして深海ダイビングやウォータースポーツのための防水モデルを含む、さまざまなタイプに設計された積算計などがあります。

ゼニス フライバック機能が搭載されたエルプリメロクロノグラフ腕時計

ゼニス フライバック機能が搭載されたエルプリメロクロノグラフ腕時計




自動巻きクロノグラフ

1969年はクロノグラフの当たり年でした。当時はその高い需要のために、世界中の時計メーカーが競って自動巻きの特許取得と独占的な権利を確保しようと競争を広げていました。

ブライトリング、ホイヤー、ハミルトンが、ムーブメントのエキスパートであるデュボア・デプラとパートナーシップを結んで史上初の自動巻きクロノグラフを開発しようと決めたのもこの頃でした。

これがクロノマチックと言われるキャリバー11です。


必要最小限のエキスパートたちによって秘密裏に開発され、1969年3月3日、ニューヨークとジュネーブで初の自動巻きクロノグラフが発表されました。
クロノマチックと呼ばれているキャリバー11のムーブメントは、 中心から離れたマイクロローターを使用して自動的に巻き上げます。

ブライトリング社のクロノグラフ cal.11


この4社が作り出したキャリバー11から遅れること半年後にゼニスとゼニスの傘下の
モバードがそれまでには到底実現できないと言われていた毎時36,000振動を実現し
?その結果0.1秒を計測できるスピードと精度が飛躍的に向上しました。

それが未だに最高傑作と言われるムーブメントであるエルプリメロです。

これは中央にフルローターを配置し、10分の1秒を計測できるものでした。

キャリバーおよびプリメロの開発とほぼ同時に、日本のセイコーも6139オートクロノと呼ばれる自動クロノグラフをリリースしました。

しかし、時計業界によるこれらの功績が称賛されたのは束の間でした。

1969年はセイコーが世界初のクォーツ腕時計を作った年でもあり、それは時計の歴史にとって大きなブレイクスルーの1つであったことは確かです。

時計愛好家たちの間ではいまだに誰が最初のクロノグラフを発明したかという議論がなされていますが、 セイコーのクォーツアストロン35SQによって、クロノグラフが事実上時代遅れになってしまったと言っても間違いではないでしょう。

セイコー(seiko)のクオーツアストロンの腕時計



※クオーツ時計::水晶に電気を流すことによって規則正しい振動をすることからそれを
         時計の機構に組み込んだ時計

  

クロノグラフ腕時計の宇宙飛行への飛び立ち

1969年にクォーツ時計が発明されたことで、多くの時計メーカーは、多額の時間と資金を投入したクロノグラフがセイコーの新しい電子技術品のせいで売れなくなることを恐れました。

しかし、時計収集家であり時計学者としても名高いアイゼンハワー大統領は、NASAによる宇宙開発の発展のため、すべてのテストパイロットと宇宙飛行士にクロノグラフ腕時計を装着することを命じました。

それまでにもNASAによる宇宙開発をされていました。
クオーツショックが起こる前の1962年にはブライトリングのナビタイマーに
宇宙でも時間が分かり計測も出来る機能を搭載したコスモノートが誕生しました。

ブライトリング コスモノート

ブライトリング コスモノート

コスモノートは当時のNASA宇宙飛行士のスコットカーペンターが腕に身につけて
オーロラセブン号に乗り初めて宇宙を飛行した腕時計でもあります。

無重力の宇宙でも正確に時間が刻まれるように普通の文字盤ではなく24時間表記をしてあるのが特徴です。

その時の飛行で4時間56分5秒の飛行に成功しています。


その後もNASAによる宇宙開発は続き
1970年4月15日、スペースシャトルの打ち上げからわずか56分後、地球から200,000マイル離れたところでアポロ13号が爆発するという事件が起きました。

3人の乗組員は確実に死んだものと思われ、飛行していたカプセルは見えなくなりました。

世界が心配そうに見守る中、2日後の1970年4月17日、宇宙飛行士たちは無事に地球に帰還することができました。

アイゼンハワー大統領の命令で装着していたオメガスピードマスターのおかげでした。



宇宙飛行士たちは、すべてのコンピュータが故障したにもかかわらず、クロノグラフ機能を使うことでエンジンの燃焼を計測することができたのです。

彼らは地球への帰還を再計算することができたため、カプセルを調整して安全に着水することができました。

この時にアメリカ人は、技術的に進歩したスーパーコンピューターがなくてもシンプルな腕時計が彼らの命を救ったことを知り、アポロ13号には搭載されなかった新しい電子時計と比べて、クロノグラフの時計を再び見直すようになったのです。

今では、商業・民間・軍のパイロットの大多数がクロノグラフを着用しています。万が一システムが故障した場合、そのシンプルな腕時計は彼らを救うために必要となるでしょう。


初めて宇宙に飛び出した時計がブライトリング社のコスモノートであり
初めて月面着陸した際に身につけられていた時計がオメガのスピードマスターということです。


私のお気に入りのクロノグラフ

クロノグラフは、世界で最も生産販売されているコンプリケーションの1つとして何度も腕時計に組み込まれてきました。

以下は私の個人的なお気に入りの数点であり、そのラインには多くの新旧モデルがあります。
ほとんどのものが、あなたのコレクションにとって素晴らしい投資になることは間違いありません。

モデルによって異なるムーブメントを使用していることが多いので、スペックについては載せていません。あなたが選んだ時計を詳しく調べてみることを強くお勧めします。



オメガ スピードマスター

もともとは自動車レース用に作られたもので、この時計が宇宙飛行士の命を救うことになるとは誰も予想していませんでした。この時計の系統と背後にある物語によって、オメガのスピードマスターは私の大好きなクロノグラフの1つです。

オメガ スピードマスター クロノグラフ腕時計

 

ゼニス エルプリメロ

ゼニスのエル・プリメロは、最も人気のあるコンプリケーション時計としての足掛かりとなったクロノグラフです。市場には高品質のクロノグラフが数多くありますが、これは普及の名作であり、大変な努力と創意工夫ならびに創造性によって成功を収めたものであることがわかります。

ゼニス エルプリメロ クロノグラフ腕時計
ゼニス エルプリメロ クロノグラフ腕時計のムーブメント

 

ブライトリング クロノマットGMT

長い間、最も典型的なパイロット用腕時計と考えられていたブライトリングは、時計に最高のものを求める専門家の間でその名を築いてきました。すべての男性にぴったりの大きくてスポーティなこの時計は、ライバルにとって手ごわい相手です。

ジャガー・ルクルト ディープシー・クロノグラフ・サーメット

驚くほど薄いこの時計は、金属とセラミックが完璧に組み合わせられているので、安定性が増し、長年にわたって保つことができます。3カウンターのクロノグラフで、ムーブメントは1959年のメモボックス・ディープシーにインスパイアされており、クロノグラフのインジケーターは1930年代の「クロノライト」に搭載されたものに敬意を表しています。注目に値する、おしゃれでセクシーなクロノグラフです。

 

A.ランゲ&ゾーネ ダブルスプリット

常に、世界最高の時計メーカーの1つにランクインされています。ダトグラフは長い間、ラインナップの頂点と考えられてきました。この時計を特別なものにしているのは、世界で唯一のダブル・スプリットセコンドを備えていることだと思います。その系統と圧倒的な美しさの組み合わせによって、ダブルスプリットは確実に二度見する時計でしょう。

パテックフィリップ パーペチュアル・カレンダー・クロノグラフ

かなり高価であり、探すのさえも難しいですが、パテックのような時計メーカーがクロノグラフを作れば、他に同じようなものは存在しないことがわかるでしょう。世界で最も崇拝されている時計であると考えられており、オークションでは何百万という価格で取引され、時計の愛好家やコレクターからも国際的なレベルで注目を集めています。もし私が世界で有名なクロノグラフを手に入れることができるなら、これにするでしょう。

 

腕時計クロノグラフの実用的な機能

クロノグラフは時間を測定するためのものですが、 特定のダイヤルマーキングや目盛りと組み合わせることで、 単にゆで卵の時間を計るだけでなくそれ以上のことができます。 そのメカニズムは何年もかけて、緊急を要する作業に利用できるよう改善もされています。 スマートフォンのアプリと同じように、クロノグラフにも様々な機能が追加されています。

以下がその種類と目的になります。

タキメーター

オメガのスピードマスター・プロフェッショナルや、

ロレックスのコスモグラフ・デイトナのベゼルに見られるタキメーターは、 1キロメートルまたは1マイル以上の平均速度を測ることができます。

脈拍スケール

ロンジンのパルスメーター・クロノグラフのような腕時計に、 この機能が付いているのが見られます。 名前の通り、心臓の脈拍数を測ることができます。 医師のために設計された脈拍スケールは通常、 聴診器と組み合わせて使用されます。

テレメーター

テレメーターは、脈拍スケールに比べるとあまり一般的ではなく、 ボールのストーム・チェイサーやアルピナのアルピナ・クロノグラフに見られます。 距離を較正するために砲兵隊が距離を測定するために使われますが、 嵐がどのくらいの距離にあるかを測定するためにも使用されています。

フライバック

Retour en Volというフランス語で知られているフライバックは、 もともとパイロットが時間ベースのナビゲーションで使用していたもので、 ムーブメント自体を修正するものです。 ボーム&メルシエケープランドのクロノグラフに見られ、 クロノグラフをストップ、リセット、再スタートすることなく、 素早く連続的に時間を計測することができます。

スプリットセコンド・クロノグラフ

フランス語でラトラパンテとも呼ばれ、
IWCインヂュニア・ダブル・クロノグラフに見られます。

これもまたムーブメントの修正をするものであり、
2つのクロノグラフ針によって2つの時間を同時に計測することができます。

現代のクロノグラフ クロノグラフは実世界の実用性を意味するだけでなく、
古くからの職人技とエンジニア能力を感じさせるものです。

ヴァシュロン・コンスタンティンのクロノグラフムーブメントの装飾のように、
目を見張るほど美しいクロノグラフも存在します。

最後に 今日のクロノグラフにおいては、着用者が各部品に細心の注意を払い、
フィット感と仕上がりを精査することが求められます。
近い将来、機械式クロノグラフは美しく機能的なものとして残存するでしょう。

手首につけるおしゃれなものというだけでなく、
その血統や歴史から生まれた本物の魅力を持つファッション哲学として。




最後に

クロノグラフがパイロットと宇宙飛行士に使われていることは明らかですが、私たちが毎日使うことのできる現実的な機能をたくさん備えていることに、あまり多くの人は気づいていません。

ラーメンの3分を測るときや、口論のあとあなたの妻がどのくらい長く怒っているかまで、時間の計算を必要とするどんな時でもクロノグラフにとっては最適な機能です。

仕事の大小に関わらず、クロノグラフは車や自転車レースを計測したり、赤ちゃんの心拍を測定して命を救ったり、ダイバーの酸素残量を計算したり、地球から200,000マイル離れたスペースシャトルを再調整したりすることができます。

クロノグラフは大多数の人が時計に付いていてほしい機能ですが、ほとんどの人は一度も使用していません。

もしあなたが、実際の能力を知らずただ普遍的な魅力によってクロノグラフを購入した一人だとしたら、ぜひ使ってみてください。シンプルに使えるのに、非常に複雑に作られています。コンプリケーション時計の中ではクロノグラフこそが、注目と尊敬に値するものです。