ドーム兄弟(ドーム・ナンシー) フランス製ガラス工芸
ドーム兄弟(ドーム・ナンシー)の歴史・技法
"Daum Nancy"のマークが入ったガラス工芸品は、フランスのオーギュスト・ドームとアントナン・ドームの工房による作品です。2人の兄弟は1870年代、父ジャン・ドームの所有するフランス、ナンシーのガラス工房を継ぎました。工房は1890年代まで時計用のガラスやその他実用的なガラス製品を作っていましたが、その後芸術作品としてのガラス工芸を始め、創作活動は20世紀以降も続きました。ドーム兄弟によるカメオ・ガラスは1893年のシカゴ万国博覧会にて展示されました。ドーム兄弟の作品の多くはカメオ・ガラスという、複数の層の色ガラスを削って彫りの浅い文様を生み出す技法で作られたものです。一方でカメオに留まらず、エナメリングや沈み彫りなどいくつかの技法を組み合わせた作品も見られます。また、花瓶や皿などの作品の多くは銀や金箔が土台になっています。
"European Art Glass"という洋書(レイ&リー・グローバー著)によると、ドーム兄弟は同郷のエミール・ガレに大きな影響を受けたと言われています。実際、ガレがカメオ技法を完成させたことから、ドーム兄弟の作品はしばしばガレのものと混同されます。ガレが死去した1904年以降ドーム兄弟の作品はますます人気を集め、革新的になってゆきました。
第一次世界大戦でガラス工芸品の生産が滞ったのち、ドーム兄弟はそれまでのアール・ヌーヴォーから当時流行のアート・デコの様式に転換しました。
そして第二次世界大戦後は、鉛の入った透明のガラスに職人が息を吹き込むか熱を加え、様々な形や器を生み出す技法がメインになりました。1970年代にはパート・ド・ベールの技法がパート・ド・ベール・ヌーヴォーとして再び採用されました。
現在もドーム・ナンシーの作品は上質のガラスを使って生み出されています。
ドーム・ナンシーのマーク
ドーム・ナンシーのマークは、作品にサインを刻むことで施され、写真の小型の花瓶のように作品の側面、または底に見られます。位置に関わらず、マークは"Daum Nancy"の文字とロレーヌ十字(一本の縦棒と二本の横棒からなり、横棒の長さが異なる十字の一種)で構成されており、十字と文字が繋がっていたり、文字の下に十字があるパターンもあります。一方、ドーム・ナンシーのマークには変則的なものも数多く見られます。例えばコレクターの間で「悪魔の尻尾」と呼ばれる、NancyのYが伸びているものや(上の画像を参照)、"France"の文字が加わっているものがあります。また、製造日や蝶々が描かれていたり、丸みのある文字でマークが施されている作品も存在します。
ドーム・ナンシーの類似品
目の肥えたコレクターならばドーム・ナンシーの類似品は比較的容易に見分けられますが、ガラス工芸のバイヤー経験が浅い方は誤って類似品を購入してしまう事も珍しくありません。類似品の多くは、上の画像のものと比べて「悪魔の尻尾」を大幅に太くしたサインが施されているのが特徴です。しかしこれらの類似品は、オリジナルを模倣しつつも違いが目で分かり、実際のドーム・ナンシーの工房で作られたものと比べて装飾の質が劣っていたり、ガラス細工の繊細さに欠けていたりします。
よってドーム・ナンシーのオリジナル作品に親しむにつれて類似品との区別は付くようになりますが、それまでは十分注意する必要があります。