氷コップの続き
プレス皿 ねじり菊文
こちらは、プレス技法によってねじり菊文が表された明治から大正期のお皿です。
プレス皿のモチーフは西洋から伝わったものから日本独特のものまで様々です。
そのモチーフより、当時の流行や社会の発展が分かるのも面白いポイントです。
日本での洋式ガラス技術の発展に貢献したとされているのが、
明治6年から25年にかけて日本初の本格的な洋式ガラス工場を運営していた品川硝子です。
ここでは、イギリスから招いたガラス技師により最先端のガラス技術が伝授されました。
洋式の吹きガラスやプレスガラス、カットやクラヴィール、腐食を利用した技術など
さらにはウランガラスもこれをきっかけとして発展していったそうです。
時代特有の柔らかい凹凸が昔ながらの趣を感じさせ、日本の国花でもある
菊の花が流れるようなねじり菊文はとても美しいですね。
この作品はブラックライトを当てると反応があり、ウランを含有してるガラスです。
底の平な面積は全体からすると小さめですので、冷菜をちょこんと盛り付けると
まるで一流レストランのテーブルのように見えます!!
<サイズ>
直径13cm 高さ2cm
プレス皿 八割文
こちらは、明治期の八割文が施されたプレスガラスのお皿です。
お皿の中心から放射線状に伸びた二重のラインで円周を八つに分割したデザインです。
プレス皿の文様バリエーションはとても豊富ですが、特に人気のある文様の一つです。
中心部はメインの八つのラインに加え、その間も細いラインで埋められており、
さらに縁に近い部分では、格子柄と菊の花を横から見たような放射状のデザインが
施してあります。
また、この作品はお皿の縁が少しフリルになっていてデザイン性は非常に高いのですが、
決して大げさなフリルではありません。
したがって、テーブル上でもどんな他のガラス食器とでもよく合います。
ずっしりと重く、またこの色合いを見てもこの時代によく見られる
鉛含有のガラスだと思われます。
季節を問わない柄ですので、6枚セットで購入しました。
ガラスはしっかり厚めで、冬でも使用頻度が高いガラス食器の一つです。
<サイズ>
直径 25.5cm 高さ 5cm
プレス皿 唐草文
これは、唐草文と呼ばれる文様のプレス皿です。
唐草模様はある特定の植物を描いたものではなく、植物の茎やつるなどをモチーフとした
柄の総称です。したがって、日本における唐草模様に当たるデザインはその他の国にもあります。この唐草文は、前にご紹介した八割文とねじり菊花文と同様に、
西洋のデザインを模倣したものです。
この作品は、大胆な唐草文の流線と大小異なる大きさの格子の幾何学模様が
絶妙なバランスで取り入れられています。
縁は花びらをイメージさせる花形で、とっても華やかですね。
小さいサイズなので、日常的に取り皿として使用しています。
<サイズ>
直径 約10cm 高さ 約2cm
プレス皿 アーチ付葉文
こちらは、大正時代のアーチ付葉文がプレスされたお皿です。
お皿の中心は、植物の茎またはつるの様なモチーフがデザインされており、
底の周囲は実と思われる丸い形で飾られています。
その外側には、このお皿のメインの柄となる葉っぱ模様が
アーチに囲まれたデザインが施されています。
ふちにも丸い凹凸があり、お皿一面あふれんばかりの加工がされています。
装飾性の高い素晴らしい作品ですね。
実物はそれほど大きくなく、小皿としてフルーツやケーキなどに使用しています。
<サイズ>
直径 11cm
プレス皿 百合文
こちらは、百合の大輪をモチーフとした百合文のプレス皿です。
葉や花びらの柔らかさが伝わってくる様な美しい曲線が魅力的な作品です。
世界的に見ても白い百合は純潔、無垢の象徴として扱われています。
また、「立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花」とも言われ、
百合の花は美人の象徴です。
背景のガラス部分に何重にもなった細い線が見えますが、このような筋は
ガラスの表面のざらつきを目立たなくするための工夫だったそうです。
まだ技術の発展途上で、滑らかなガラスを作ることに苦戦していた時代です。
このお皿は特に母が祖母から譲り受けて特に気に入っているものです。
百合文の食器は、女性へのプレゼントにも最適なアイテムですね!
<サイズ>
直径 約15cm
プレス皿 牡丹文
こちらも、大きな牡丹が美しい牡丹文のプレス皿です。
百合文のところで少し触れさせていただきましたが、牡丹も百合と並んで美人の象徴です。
小さな丸いつぼみから、花びらが幾重にも重なった大輪の花を咲かせ、
優雅で華麗なその姿 から「幸福」の意味で用いられることもあります。
とても縁起の良い文様ですね。
百合文のプレス皿と同じ時期の作品で、これにもザラつきを目立たなくするための
細かい筋がたくさん入っているのがわかります。
同じシリーズで大きさもほぼ一緒ですので、
百合と牡丹を合わせて使うと美人効果倍増?!です。
<サイズ>
直径 約15cm
プレス皿 梅と鶯
こちらは、鶯を中心としてその周りには梅紋が表された美しいプレス皿です。
購入時には昭和初期の作品であると説明いただきました。
「梅に鶯」という日本の故事にあるように、取り合わせの良い二つを示すことから
仲良い二人間柄を象徴する柄ですね。
古今和歌集には、梅と鶯の両方が詠まれている歌は6種類もあるそうです。
それだけ日本においては、梅と鶯は春の象徴でもあり、似合いの組み合わせという印象が
深く根付いているんですね。
縁起の良い文様であることから、特に食器ではお祝いのプレセントとして選ばれることが多いのだそうです。
使っていると淡いピンクの梅の花と清々しい黄緑の鶯の世界が自然と頭に浮かんでくるような素晴らしい作品です。
<サイズ>
直径 約12cm 高さ 1.5cm
プレス皿 桜文
こちらは、明治後期から大正時代に製造されたと思われる
中央の桜が印象的なプレス皿です。
桜より手前には朝日が昇る様子、桜の奥には錨(いかり)の模様が施されています。
戦争の記念皿として作られていたそうです。
錨の模様入りなので、海軍へ配られたものでしょうか。
この時代の桜文のプレス皿には、このような戦争にまつわる作品が多く見られます。
食器の柄は流行などよく反映していますが、まさにこのお皿は日本の社会情勢を
表しています。
なかなか楽しんで使えるお皿ではないのが正直なところですが、他の柄には無い
特別な意味がある気がしたので、コレクションに追加しました。
これまでの日本の歴史の一部だと思って、これからも大事にしていきたいと思います。
<サイズ>
直径 約16cm 高さ 約2cm
型吹きガラス皿 籠目文と雷文
珍しい柄ですので、プレス皿は一旦お休みして型吹きのガラス皿をご紹介します。
この作品は中心に籠目文、縁には雷文が施されている明治後期のお皿です。
氷コップとして前にご紹介した籠目文とは少し見た目が異なりますが、
こちらも籠を編んだように見えることから、織物業界でも籠目文と呼ばれているようです。
雷文はラーメンの丼に描かれることの多いよく知られた幾何学模様ですが、
中国由来のあの雷文とは少し異なる気がしたので調べてみました。
専門的なことはわかりませんが、どちらかと言うとギリシャ雷文なのかな~
と思っています。
いずれにしても、この二つの幾何学模様の組み合わせはとてもオシャレですね!
使う季節や機会が限定されない文様なので、とても重宝しています。
ちなみに、この作品は指で弾くと鉛ガラス特有の高音が鳴ります。
<サイズ>
直径11cm 高さ 2cm
プレス皿 鹿と紅葉
こちらの作品は、日本の伝統文様の鹿と紅葉がプレス技法により
表されているガラス皿です。
日本の伝統文様は季節を表すものが多く、紅葉は秋とされています。
鹿と紅葉は花札でもおなじみの組み合わせですが、
奈良の興福寺の伝説がもとになっていると言われています。
興福寺で習字の練習をしていた小僧が紙を食べようとした鹿に
石を投げて殺してしまいました。当時、鹿は神の遣いとされていたため
小僧は処刑され、鹿と一緒に葬られました。
小僧の母親が息子の霊の供養のために紅葉の木を埋めたことから
この二つのモチーフとなりました。
ちなみに、無視することをシカトするといいますが、
花札の絵では鹿がそっぽを向いているので、こう言うようになったそうです。
現代語と思っていましたが、意外なところに由来しているんですね。
写真左のお皿は縁の外側部分に凹凸が施されており、
立体的な作品になっています。
<サイズ>
直径 約10cm
プレス皿 麻の葉文
こちらは、麻の葉が細かい点で表現されたプレス皿です。
麻の葉文は麻の葉を模式化した模様で、別名麻の葉繋ぎとも呼ばれる
日本の伝統的な幾何学模様の一つです。
麻の葉栽培の歴史は古く、紀元前前から栽培されていたとか。
織物においては綿よりも強く丈夫なことから、戦後になって綿が主要な織物の原料になってからも重宝されていた植物です。
現在でも和服の柄として親しまれていますが、麻の早い成長とその強い生命力から
健康と魔除けの意味を込めて赤ちゃんの肌着にも使われる柄です。
私自身、麻の葉文の着物に興味があった時にこのお皿に出会いました。
和洋どちらのお料理にもよく会うデザインです。
産後に限らず、健康を祈願してプレセントするのにも良いですね。
その時は必ず麻の葉文の意味もお伝えすることを忘れずに!!
<サイズ>
直径9cm
プレス皿 青海波
こちらは、青海波と呼ばれる文様が施されたプレス皿です。
三重になった半円をつなげて波を表現した日本の伝統幾何学模様の一つです。
青海波にも様々なパターンがありますが、この作品の青海波はもっともシンプルで
日本人にとって親のあるものと言っても良いでしょう。
名前は少々難しい響をしていますが、着物から和小物、商品パッケージに至るまで
日常的に目にする柄です。元来、中国を経由して西洋から日本に伝えられた文様で、
日本において舞楽「青海波」の衣装の柄に使われたことが名前の由来になっています。
また、元禄時代の青波勘七という漆職人がこの模様を多く描いたことからこう呼ばれるようになったという説もあるそうです。
青海波はどこまでも続く青い大海原の緩やかな連続した波を想像させることから、
平穏無事を願う吉祥文です。
地球上のどこにでも繋がっている海。
穏やかでないニュースを多く耳にする昨今ですが、大海原の静かな波のように
世界が平和になるといいですね!
<サイズ>
直径 12.4cm 高さ 1.8cm
プレス皿 竹に(福良)雀文
こちらは、竹林に二羽の福良雀(ふくらすずめ、膨雀)がいる様子を表現したプレス皿です。
福良雀とは、冬に羽を膨らませた雀もしくは冬に備えて少しばかり太っている雀を言います。
この意味からすると本来は「膨雀」の漢字を使いますが、大きく膨らむという意味から縁起の良い「福良雀」とも呼ばれます。こちらの方が本当に福がやって来そうなのでタイトルはこちらを採用しています!
竹に雀という組み合わせですが、古くから家紋としても用いられてきました。
日本史はあまり詳しくないですが、竹と二羽の雀としての武家家紋の有名どころは、
上杉氏が用いた「上杉笹紋」やそれを引き継いだ形の伊達氏の「仙台笹」あたりでしょうか。
竹の葉が多かったり少なかったり、雀が飛んでたり止まっていたり、竹と雀をモチーフとした家紋は様々です。
可愛い雀ちゃんのデザインも、よく調べてみるとその奥には日本の歴史や文化が詰まっているんですね。レトロガラスの収集は奥が深いとしみじみ思います。
<サイズ>
直径 約12cm
プレス皿 水車巴
中央に水車、縁は一つ巴(ともえ)で飾られている不思議な柄のプレス皿です。
明治末期から大正時代のものと思われます。
巴文は古くから世界各国に存在しており、西欧では蛇の形から、中国は雷や雲の形に由来しています。幼い頃から、雷神の太鼓に書いてあるマークが気になっていたのですが、中国ではあの文様が雷のシンボルだったんですね。
一方、日本では巴文は水の渦巻きを模式化したものと考えられています。
水車文ですが、着物の世界でも柄として水車が単独で用いられることはほとんどなく、
この作品のように巴など水に関連した文様(そのほか青海波など)と共に
表現される事が多い文様です。
水車の八方に突き出た柄杓が、打ち出の小槌にも見えることから「槌車文」とも呼ばれます。
願いを叶えてくれる小槌にちなんで、水車は縁起の良い文様として、着物では留袖など正装度の高いものに多く見られます。
我が家では、その一年が願い通りになるようお正月に使う事が多い食器です。
ガラス食器の冬の使用はその涼しいイメージから敬遠されがちですが、
縁起ものだと思うと冬のガラス食器も全く気になりませんよ!
<サイズ>
直径 13cm
プレス皿 ガーター勲章文
こちらは、ガーター勲章をデザインした洋風のプレス皿です。
ガーター勲章とは、1348年に英国のエドワード3世により創始され、現在英国に存在する9つの勲章の中でも最高位に当たる勲章です。
ガーター騎士団が保持し、その団員であることを示す勲章です。
ガーターという呼び名ですが、あの靴下留めのガーターに由来しています。
当時、国王主催の舞踏会で国王と踊っていた婦人がガーターを落としてしまうという失態をしてしまいました。誰もが彼女を嘲笑う一方で、国王はそのガーターを自分の足に付け、ガーター騎士団のモットーとなった「悪意を抱く者に災いあれ」とつぶやき、「このガーターを最も名誉あるものとしよう」と宣言したのだそうです。この美談が騎士道精神を象徴し、現在までも引き継がれています。
写真でもお分かりのように、このお皿はMADE IN JAPANであり、同様の柄のお皿は
西洋では流通していないそうなので、日本独自の柄と言えます。
ではん、なぜガーター勲章が日本でも珍重されるようになったのでしょうか。
欧州において一時的に勲章の価値が下がっていた頃、ナポレオン戦争によってその価値はこれまでにないほど跳ね上がりました。その評判は欧州各国だけでなく中東や遠いアジアにまで届き、世界中でガーター勲章への憧れが増していったのです。
急速に西洋化へ邁進していた当時の日本も例外ではありません。
そんな中、日清戦争、日露戦争など数々の戦争における日本兵を讃えるかのごとく、
これまでイギリス女王を訪問したキリスト教徒にしか与えられなかったガーター勲章が、
キリスト教徒ではなく外国への旅行もままならない明治天皇に授与されたのでした。
その後、日英戦争を機に剥奪されたガーター勲章を再び授与されたのが昭和天皇だったということも特記すべきですね。明治天皇への前例のない授与と再授与されたのが昭和天皇ただ一人だったという、日本の皇室とガーター勲章には深い繋がりがありました。
当時は明治天皇へのガーター勲章授与のお祝いの意が込められていたのでしょう。
多くの犠牲を伴っただけに、今となっては複雑な感情が湧いてきますが、
日本の歴史を振り返る貴重な食器であることは間違いないでしょう。
<サイズ>
直径 約13cm 高さ 約 1.1cm
プレス皿 ポンド皿
こちらは、プレス皿の中でもポンド皿という呼び名がついている作品です。
中央に施されたマークが、イギリスの通過であるポンド(£)に似ていることから
こう呼ばれています。
このお皿が特徴的なのは、そのマークの周囲に「SMALL GAINS BRING RICHES IN.(塵も積もれば山となる)」と刻字されていていわゆる格言皿なのです。
ガーター勲章と同様に、西洋風にアレンジされた日本独自のデザインです。
ニューヨークにある美術館のホームページでも日本のプレスガラスとして紹介されています。
お店の方に尋ねても、このポンドに似たマークが何なのか結局不明なままなのですが、
使うたびにこの格言が心にしみるそんな作品です。
<サイズ>
直径 14cm 高さ 2.5cm
これより先は番外編として、まだ私のコレクションにはない文様をご紹介します。
<番外編> 花弁文
名前の通り、花びらを模式化した文様です。
現在は、有田焼などの焼き物に手書きで表されることが多い文様で、
大正ガラスでは非常に珍しいものかと思います。
<番外編> フジツボ文
まだ本でしか見たことのないこのフジツボ文。
源氏物語の藤壺と関係があるのかと思いましたが、
見た目は海で岩にくっついてるフジツボそのものです。
なぜフジツボなのか。どんな荒波がきてもしっかりしがみついていることから、
粘り強い事の象徴とかでしょうか。疑問は深まるばかりです。
<番外編> 福禄寿文
福禄寿とは、前にご紹介した毘沙門天と同じく七福神のひとつで、
幸福、封禄、長寿の三徳から一文字づつとって命名され、具現化したものです。
お皿の柄としては、福、禄、寿の文字がプレス技法によって表されているそうです。
福禄寿が祀られているのは、万福寺(東京)、阿志都弥神社/行過天満宮(滋賀)、赤山禅院(京都)、鉤取寺(宮城)、若宮八幡宮(愛知)だそうです。
お詣りした際に、近くの骨董品屋さんなど巡ったら、もしかしたら福禄寿文のプレスガラスに出会えるかもしれませんね!
<番外編> 魚子文
魚子(ななこ)とは、細かい模様が魚卵のようであること、または海面を泳ぐ小魚の群れに似ていることからこう呼ばれています。
江戸切子の代表的な文様ですが、明治昭和の型吹きやプレスでは非常に珍しい文様です。
<番外編> 松傘文
松傘(松笠)とは、いわゆる松ぼっくりのことです。
こちらも魚子文と同じく、江戸切子などのカットガラスの文様として人気があります。
松は冬でも枯れることなく、防風林にも用いられるように寒さや風雪に強いことから、
長寿の象徴として用いられるモチーフです。
松にちなんだ模様は、松傘以外にも「唐松」「若松」「笠松」「松葉」など多岐にわたります。
松傘文は、松の葉とともに描かれることが多いそうです。
ガラスの技法
あぶり出し
透明のガラスに、乳白色/オパール色の模様を浮かび上がらせ、美しい装飾を施す伝統あるガラス技法です。
<基本技法>
1. 吹き棹と呼ばれる長い棒に、原料のガラスを巻き取り、さらにオパールガラス(骨灰などの乳濁剤が混ぜられたガラス)を巻き取ります。このオパールガラスは、急激な温度差を与えることで、乳白色に混濁する性質を持っています。これで、ガラスのベースは出来上がり。
2. このベースを、凹凸の模様が施された金型に吹き込みます。この時、凹の部分にはガラスが触れないようにします。こうすることで、金型に触れた部分と触れない部分で、温度差が発生します。 金型に触れた部分のみ温度が下がります。この時、既に模様がうっすら浮かび上がります。
3.炉に戻して、再び加熱します。金属(金型の凸部分)に触れている部分は乳濁がさらに進み、金型に触れなかった部分は高温のまま透明な状態を保ちます。作業環境によっては、白濁する部分と透明な部分が反転することがあります。
4.器の形をした型に吹き込み、形を整えます。アンティーク氷コップが作られた明治から大正時代には、 次にご紹介する宙吹きという方法でこの工程を行なっていたようです。もともとあぶり出し法は、欧米の乳白色のオパルセントグラスの製作方法に由来していますが、最後に行うこの吹きの工程は、日本独自のもので、粗い表面が均一となり、西洋の製品にはない滑らかさが生まれました。
5. 棹から切り離して、加工を施し、完成!!
宙吹き
加熱により溶解したガラスを形取る技法のひとつで、型を使用する型吹きに対して、型を使わない技法を宙吹きと呼びます。
<基本技法>
1.金属の吹き棹に、溶解したガラスを巻き取ります。鉄リンと呼ばれる道具で、リンを噴きかけ、息を吹き込みながら形を整えます。
ここで、宙吹きの場合は、型を使わずに空中で息を吹き込みます。トランペットを吹くような姿をイメージしてみてください。
(型吹きは、金属や木でできた型に息を吹き込んで型取ります。)
宙吹きでは、職人さんが自由に形作ることができ、柔らかい曲線が生まれます。
これが完成後にひとつひとつ異なる表情を見せてくれるんですね。
2.大まかに形が整ってきたら、作業台の上で棹を回し、さらに形を整えたり、修飾を加えます。
3.吹き棹とは別に、金属のポンテ棹(イタリア語で橋を意味する)を用意し、少量の熱いガラスを巻き取ります。吹き棹に付いている成形後のガラスの底に、このポンテ棹を付けて、吹き棹から取り外します。
4. 専用の窯でガラスを再び温めます。口縁部に加工を施したら、ポンテ棹から切り外し、冷却用の窯でじっくり冷まします。ガラスに日々が入らないように、ここでゆっくり冷ますことがポイントです。冷めたら、完成です!!
グラヴィールについて
宙吹きや型吹きはガラスが熱く熱された状態で形作る方法で、ホットワークと呼ばれますが、一方、グラヴィールは冷めた状態の形作られたガラスを彫る技法で、コールドワークと呼ばれています。カット技法と混同されがちですが、グラヴィールでは線と面の両方を組み合わせて彫られるたため、表現の幅が広いのが特徴です。
クラヴィールには様々な種類の道具や材料が用いられます。
ガラス加工機とこの先端に付ける銅板付きシャフト、研磨剤、手がブレないように肘当て、
ガラス表面を削るための大きさの異なる銅板や砥石、磨くためのコルク盤が主に使われます。必要に応じて、磨く際には硬度の高いダイアモンドホイールを用いる事もあります。
これより、簡単にコールドワークの技法についてご紹介させていただきます。
1.下絵付け
ガラスの表面に下絵を写し、この後のほる作業の際に、下絵が消えてしまいのを防ぐため、
ニスを塗っておきます。
2. 荒彫り
下絵を元に、広い面を中心に彫っていきます。彫った面は半透明の磨りガラスのようになっていきます。
3.本彫り
荒彫りで彫っていない細かい部分、例えば細い線の葉脈などをさらに彫っていきます。
4.仕上げ
彫ったままの状態では、磨りガラスの不透明さにばらつきがあるので、立体的に見せるためには、コルクで磨く必要があります。こうすることで、磨かれた部分は透明感が増します。
氷コップの形について
これまでいくつか氷コップをご紹介させていただきましたが、
ご覧いただいたように、氷コップには様々な形があります。
具体的には、なつめ型、碗型、ラッパ型、ベル型です。
出回っている形としてはなつめ型と碗型が比較的多いのではないかと思います。
簡単ではありますが、これらの形についてまとめてみました!
<なつめ型>
名前の通り、ナツメの形に似ていることが由来だと思いますが、
当初は氷水用のコップだったものが、氷菓子用に改良されたという流れがあるそうです。
ドリンク用のコップとしても活用でき、食卓で活用できる機会は非常に多いですね。スッキリとした縦長のフォルムでスタイリッシュな印象を受けます。
<碗型>
碗型も名前の通り丸いお椀の形をしていて、脚のない小鉢ももちろん碗型ですね。
氷コップの典型といっても良いでしょう。
ぽってり丸いイメージが可愛らしく、フェミニンな印象を受けますが
柄によっては堂々とカッコよくも見えます。
お茶碗の形だけに、日本人にはとても親しみのある形ですね。
<ラッパ型>
ラッパの先のように三角形をしていて、大きめのカクテルグラスのようでもあります。特定の色や文様を探す場合、レアな作品となることが多いかもしれません。
キリッとしたイメージで、洋食のデザートによく合います。
<ベル型>
なつめ型の口縁部を外側に反らせたような、ベルの形をしています。
同じような形をしていることから、りん型(鈴型)とも呼ばれることがあるようです。なつめ型のように、もともとは氷水に使われていて、時代と共に氷菓子用に整えられたものだそうです。
この形もラッパ型と同じくアイスクリームなど洋風のデザートにもよく合います。