100分の1の世界を切り開いたクロノグラフ ータグ・ホイヤー

100分の1の世界を切り開いたクロノグラフー タグ・ホイヤー



はじめに

 

スポーツ観戦が好きな人にとって、タグ・ホイヤーのレッドとグリーンのエンブレムをかたどったトレードマークは馴染み深いものかもしれません。テニスやオートレースなど、スポーツの国際試合会場では大手スポンサーと並んで、タグ・ホイヤーのマークが堂々と掲げられています。

 

長い歴史を経て洗練されたデザインの時計を身に着けているアンバサダーは錚々たるメンバーが勢ぞろいしています。

モータースポーツ界のレジェンドとして名を馳せ、今なお高い人気を誇るレーサー、「音速の貴公子」ことアイルトン・セナ。

映画「ル・マン」で有名なハリウッドのレジェンド、スティーブ・マックイーン。

現在世界最高のサッカー選手と称されるレアル・マドリードのフォワード、クリスティアーノ・ロナウド選手。


そしてアンバサダーはスポーツ界のスーパースター以外にもいます。
アカデミー賞主演男優でオスカーに輝いたレオナルド・ディカプリオ。

日本人ではテニスのトップ選手まで登りつめた錦織圭選手やドイツのブンデスリーガで活躍している香川真司選手がタグ・ホイヤーのアンバサダーとなっています。

 

スポーツと老舗時計メーカーのタグ・ホイヤーが密接な関係を築いたきっかけとなったのが独自の技術開発で世界をアッと言わせた代名詞的な時計、クロノグラフです。

 

タグ・ホイヤーの輝かしい歴史とオートレースの展開の如くロマンに満ちたクロノグラフについて、今回はその軌跡の一部をここでご紹介しつつ辿ってみたいと思います。

 

 

 

タグ・ホイヤーの歴史

 

はじまり

タグ・ホイヤーは世界中にブランドのファンを持つ、スイスの老舗時計メーカーです。その歴史は大変長く、今から150年以上前まで遡ります。

 

タグ・ホイヤーという社名からもわかる通り、創始者の名前はエドワード・ホイヤー(Edouard Heuer)。彼は若干20歳の時、1860年にスイスの町、サン・ティミエにホイヤー社を設立しました。設立時の名前は「Ed. Heuer&Co.(ホイヤー社) といい、とても小さな時計製造工房でした。

ホイヤー社の始まりの地、サン・ティミエはスイス山脈の山間の町です。時計メーカーが多いスイスの中でも時計製造業が盛んで場所です。サン・ティミエはロンジーヌが始まった土地でもあり、ジュネーブで名声を得たブライトリングも元々はこの町で始まった会社です。

 

 Swiss Avant-Garde since 1860

(直訳すると「1860年から続くスイスのアヴァンギャルド」)

この言葉を
会社のモットーに掲げるタグ・ホイヤー。
その言葉からもデザイン性の高さと最高技術を常に追求し続ける会社の精神が生み出す時計たちからも感じることができます。

 

 

数々の革新

1869年にエドワードはポケットウォッチ用の最初のリューズによる巻き上げ機構(Stem Winding System)を発明し、特許を取得しました。エドワードが次に目を付けたのが、当時徐々に人気になりつつあったモータースポーツでした。まさにこの着眼点がその後の「タグ・ホイヤーらしさ」を作り上げたと言っても過言ではないでしょう。これをきっかけにクロノグラフに取り組み様になりました。

 

1886年には「振動ピニオン」という機械式クロノグラフの為の改善を試み、特許を取得しました。その後1889年には世界初のスプリットセコンド・クロノグラフ機構を搭載した懐中時計を発表し、同年にパリで開催された万博ではホイヤー社のポケットクロノグラフコレクションで銀賞に輝きました。

 

1908年には現在も医療機器として使われている技術の原型となったパルスメーター・ダイヤルの分野で特許を取得し、さらに世界に初めて自動車用のダッシュボードタイマージャーニー・タイム・インジケーターの二つの機能が備わった時計を発表しました。これはその名の通りダッシュボードに取り付ける時計のことです。

さらにホイヤー社の技術革新面での快進撃は留まることを知らず、1916年にはスポーツに革新をもたらした高性能な時計、「マイクログラフ」を発表しました。このマイクログラフでは当時としては初めて100分の1秒の計測が可能となり、発表後1920年に開催されたアントワープオリンピックでは公式時計を担当することになりました。高い技術力に裏付けされた正確性はこれを機に広く知れわたるきっかけとなりました。そしてその後スポーツの国際試合で公式に起用されるようになりました。

この栄光はホイヤー社ならではの技術力を表すものであり、同時期頃からタイムを競うスポーツとの密接な関係を築くきっかけとなりました。

 


 

自動車レースで光る技術力

タグ・ホイヤーの時計の人気に火をつけたのは自動車レースでの起用でした。特に1950年から1970年にかけては改良に改良を重ね、正確性と見た目の美しさを兼ね備えた時計を世の中に送り出し続けました。

 

始まりは1930年代だと言われています。タグ・ホイヤーは1933年にはオータヴィア(Autavia)を発表しました。オータヴィアは時速記録計を備えたダッシュボード機能のある時計で、発表後は自動車や航空機に使用されました。オータヴィアの名前はAutomobile(自動車)Aviation(飛行)から作られた造語です。

 

 

1958年には8日間巻きあげることなく動き続けることができる時計、ラリーマスターが誕生しました。この時計は長距離レースや国際ラリーで採用されました。

 

そして1964年にはタグ・ホイヤーを代表する名品として名高いカレラが誕生します。

 

時計としての性能だけでなく、美しく洗練されたデザイン性でも人気となったカレラは自動車レース、カレラ・パンアメリカーナ・メヒコからインスパイアされた作品です。

 

このレースはメキシコの南、グアテマラの国境から北のアメリカとの国境までを繋ぐパンアメリカンハイウェイ(公道)を数日間かけて縦断するもので、当時は世界で最も過酷なレースと呼ばれていました。1950年から5年にわたり開催された当時人気のレースがきっかけで生まれた時計、カレラはその機能性の充実度はもちろんの頃、すっきりとした見やすいデザインが特徴的です。

 

1962年にオータヴィアのクロノグラフを開発し、その2年後にはアルゼンチン出身のドライバー、ホアン・マニュエル・ファンジオ(Juan Manuel Fangio)がこのレースに勝利しました。この勝利に貢献したともいわれているクロノグラフはタグ・ホイヤーの代名詞的な存在となりました・

 

1966年には新たに1000分の1という驚異の正確性を誇る時計を開発しました。

 

その5年後にはハリウッドの元祖クール系イケメンで知られているスティーブ・マックイーンが映画『ル・マン』でホイヤーモナコという時計を着用したことでカレラに次ぐ人気作品となりました。この映画で付けているモデルは別名、スティーブ・マックイーン・モナコ・エディションとも呼ばれています。

 

この映画での栄光の後、ホイヤー社は買収を経て現在のタグ・ホイヤーという社名になりました。TAGとはT (Techniques)A (d’Avant)G (Garde)の頭文字を取ったもので、会社のモットーの言葉となっています。

 

1992年には栄光あるF1レースの公式時計に認定され。2004年にはモナコV4というレースで世界初の10000分の1秒の計測が可能な超高性能クロノメーターを開発しました。

性能を上げていく中で、タグ・ホイヤーは高級ブランド、ルイ・ヴィトンの会社に買収され、ラグジュアリーブランドとしての一面も兼ね備えるようになりました。その例として、同時期に始めたオートクチュールラインではダイヤモンドを散りばめた高級時計を発表しました。

 

現在ではオリンピックや自動車レース以外にもアルペンスキーやセーリングでも起用されています。


 

 

クロノグラフとは


機械式クロノグラフは非常に複雑な構造となっているため、懐中時計が主流だったころから自社設計、自社生産する会社は少なく、貴重でした。そこで当時はバルジュー(Valjoux)、レマニア(Lemania)、ヴィーナス(Venus)、アンジェラス(Angelus)、エクセルシオパーク(Excelsior Park)などクロノグラフを得意とするメーカーから購入後、各社そのまま自社デザインに取り込んだものや、改良することがほとんどでした。
(実際高級時計ブランドのパテック・フィリップもベースキャリバーはバルジューなどを使用しています。)

 

このような複雑な時計の改良を重ね、世界初100分の1秒の計測を可能にした時計を作ったのがホイヤーでした。

 

ホイヤー社がクロノグラフの商品化を開始したのはまだ懐中時計が主流だった19世紀末でした。19世紀は鉄道など産業革命の影響で移動手段の発達によって時計には分単位での正確性が求められるようになった時代でした。

 

クロノグラフとは簡単に言うと「ストップウォッチ機能を備えた高精度な時計」です。

 

クロノグラフには大きく3つのタイプに分けることができます。

 

すぐに計測を開始できるタイプ
時刻を示す時針、分針、秒針がそれぞれ独立していて、計測中でも時刻確認が簡単にできるのが特徴となっています。クロノグラフの秒針は常に「0」(12)の位置で待機しているため、計測を開始したいと思ったらすぐにスタートできます。


時計のモードをクロノグラフモードに切り替えるタイプ
クロノグラフの機能以外にアラームやローカルタイムなどの機能も持ち合わせた、多機能アナログ腕時計です。それぞれ使用したいモードに切り替えて使うのが特徴です。


デジタル表示タイプ(多機能クロノグラフとも呼ばれているもの)
この時計はアナログ時計とデジタル時計を両方表示している多機能時計です。デジタル表示部分がクロノグラフとなっています。このタイプの時計はスプリットタイムの表示や1時間を越えるような長時間の計測ができるのが特徴です。

 

 

 

タグ・ホイヤーのクロノグラフ


カレラ

タグ・ホイヤーの名品、カレラをデザインしたのは創設者エドワードのひ孫にあたるジャック・ホイヤーでした。カレラの洗練されたデザインは世界中の時計ファンたちをとりこにしました。見やすさを追求した結果、盤面は大型となっています。ケースぎりぎりまでダイヤルを広げたデザインと時計を身に着けた時の腕とのバランスを取るために引き伸ばしたラグが特徴です。

 


モナコ

その他にもモータースポーツに対応したモナコやフォーミュラ1、マリンスポーツに適したデザインのアクアレーサーなどがあります。名前からその時計の由来がわかりやすいのもタグ・ホイヤーの特徴の一つかもしれません。



タグ・ホイヤーを愛した著名人


スティーブ・マックイーン

タグ・ホイヤーの2代目アンバサダーを務めたハリウッドの名優スティーブ・マックイーンはブランドの大ファンとして有名です。中でもモナコを愛用していました。

 


アイルトン・セナ

音速の貴公子と呼ばれた伝説のF1レーサーであるアイルトン・セナはマックイーンあと、3代目アンバサダーとなりました。

 

 

レオナルド・ディカプリオ

『タイタニック』での活躍で日本でも人気となったハリウッド俳優のディカプリオもタグ・ホイヤーのファンとして有名です。映画『インセプション』の日本プレミアのレッドカーペットで身に着けていたのがカレラ1887クロノグラフでした。



最後にトリビアのような余談。

大人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』第三部の主人公、空条承太郎が身に着けているのはタグ・ホイヤーという設定です。(不良高校生の身の丈に合わないような気もしますが)モデルまでは特定できませんが、作者の荒木飛呂彦は生粋のF1ファンなのでフォーミュラー1かもしれないとファンの間では囁かれています。