アンティークカップの様々なスタイルを見てみよう

 

動画でご覧になる方はこちらから↓

今日のこの記事はですね、様々あるアンティークカップのスタイルについて、そのスタイルが誕生した背景や特徴などを踏まえながら、なんでそんなスタイルが存在するのかを解説して参ります。

本日参考にさせて頂きました本はこちらの『ヨーロッパアンティークカップ名鑑』になります。

ヨーロッパ アンティークカップ名鑑

廃盤になってしまっている本で、今では見つけることが難しくなっていますがとても詳しく歴史やそれぞれのブランドについて、詳しく記載されておりますので、是非とも手に取って頂きたい本ですね。

 

何気なく使っているカップ&ソーサーですが、それらのスタイルの名前や意味がわかることによって、より楽しんで頂けると思いますので、是非とも最後までお付き合いください。

 

フルートスタイル

セーブルのカップ&ソーサー フルートスタイル

ルイ XVI世(16世)とマリー・アントワネットの処刑によってブルボン王朝が倒れた後、ナポレオンによって推し進められた改革の中には、装飾様式の改革も含まれていました。

すなわち、前代のロココ調を古びたものとし、新しくローマ時代の建築やエジプト風の装飾を模範とする、端正荘厳なアンピール (エンパイア) 様式が開花したのです。

ナポレオンは、市民の心をつかみ王朝を倒したことによって装飾様式も、可愛らしいものから力強さを見せつけるような印象を与える必要があったのです。

左右対称、連続した文様からなるバランス感覚は、曲線のうねりを主眼としたロココ時代に比べて、重厚感のあるスタイルとして人々の目を捉えました。

ロココ様式の特徴については、こちらの動画で詳しく解説しておりますので興味のある方はご覧ください↓

アンピール様式についてはこちらの動画で、詳しく解説しておりますので興味のある方はご覧ください↓

そして、このアンピール様式の装飾をカップに落とし込んだのが、『フルート』なんですね。

フルートというのは、建築や家具に用いられる装飾技法の呼び名で、ギリシア・ローマ風の凸面縦縞繋ぎ(とつめんたてじまつなぎ)のことです。

このフルートで装飾したアンピール様式のカップを“パリ・フルート (Paris Flute)
のカップ” と言います。

この形状は, その後のカップのデザインに甚大な影響を及ぼした重要なもので、考案したのはセーヴル窯になります。

 

ドイツにある複数の窯もこれを見習い、ややデフォルメを加えながら同じようなスタイルを生産しました。

 

ペディスタル

様々な種類のペディスタルのカップ&ソーサー

ペディスタルのカップの特徴は、カップの下部が引き締った形になっておりくびれがあることです。

ペディスタルは、普通のカップとは少し違ったスタイルであるために、重要人物に向けて作られることが多かった形です。

実際にペディスタルのカップは、ほとんどが装飾が華やかで非常に高級感のあるものが多く残っています。

 

ロイヤルバイロイト

こちらの画像はロイヤルバイロイトというブランドで、日本ではほとんど知られていませんが1795 年から1917 年にかけて、ドイツで磁器を生産していたブランドになります。

ペディスタルのカップ&ソーサー1

ペディスタルのカップ&ソーサー2

口縁部には、金彩でエンボス加工が施された装飾で華やかさがあり、その下にはピンクローズのガーランドが描かれています。

作品全体を通して見ると、とても上品で女性に向けて作られたのではないかと思いますね。

 

ローゼンタール 

こちらのカップ&ソーサーは、皆様もご存知であろうローゼンタールのものになります。

先ほど解説した、ロイヤルバイロイトは縦長バージョンですがペディスタルは横広バージョンも存在します。

ローゼンタールのペディスタルのカップ&ソーサー

ローゼンタールのペディスタルのカップ&ソーサー

艶のある深い、ネイビー色の上から手書きの金彩が描かれたものです。

白、金、ネイビーの3色しか使われておらずシンプルに見えるのですが、ネイビーと金がしっかり映えるようにデザインされています。

 

フィッシャー&ミーグ  

作品の全体が明るい黄色ベースで作られた、ペディスタルのカップ&ソーサーになります。

フィッシャー&ミーグも日本では、ほとんど知られていないブランドですが、こちらもドイツのブランドになります。

創業当初はうまく行ってなかったのですが、クリスチャン・フィッシャーという人物に買収され軌道に乗り始めます。

この人は、フランスのセーヴルにあるナショナル マニュファクトリー(要するにセーブル窯)で色彩やデザインを学び、これらを自社製品に反映させた功績が認められています。

ですので、ぱっと見ではセーブルとは全く違いますが、セーブルで学んで来た人物が作ったので、しっかりと作り込まれているんですね。

フィッシャー&ミーグのペディスタルのカップ&ソーサー1

フィッシャー&ミーグのペディスタルのカップ&ソーサー2 

カップの内側、ソーサーともに6本のゴールドのラインが引かれており、その間にはピンクローズの小窓が手書きで描かれています。

私たちからすれば、無名ブランドなので軽視してしまいがちですがスタイルも、デザインも拡張高く非の打ちどころがないほどの完成の域に達しています。

 

 

ロンドンシェイプ

ロンドンシェイプ

ロンドンシェイプのカップ&ソーサー1

ロンドンシェイプのカップ&ソーサー2

ロンドンシェイプのカップ&ソーサー

ロンドンシェイプのカップ&ソーサー4

カップの底に近づくにつれ、ある部分から急角度で絞り込まれる形を “ロンドン・シェイプ”と言います。

ハンドルも一定の規則に従った形のものが取り付けられています。

ロンドン・シェイプは、イギリスのみで流行したといって良いでしょう。

19世紀に入るといきなり登場し、あらゆるメーカーが競ってこの形のカップを作りました。

従ってロンドン・シェイプは、英国内に同様の作例が非常に多く、イギリス製アンティーク・カップを代表する形と言えるのです。

当時、大陸ではナポレオンが登場して、先ほど解説したアンピール(エンパイア) 様式の形も金彩装飾も壮麗な磁器がもてはやされていました。

イギリスでは、一部のメーカーが大陸に追随したものの、イギリスではこのようにほとんどの窯が独自のシェイプを作りこちらが発達していくことになりました。

また、英国人もエンパイア・スタイルに媚びずに、素朴で少し野暮ったいロンドン・シェイプの製品を好んで買い求めたのです (イギリスでは、エンパイア・スタイルの影響を受けた様式を“リージェンシー”と呼びます)。

ロンドン・シェイプのカップは、写真のような3ピースで一つのセットになっており、大きめのカップが紅茶用、小さい方がコーヒー用で分類されています。

 

このスタイルの発祥なのですが、元々アフタヌーンティーはイギリスから誕生したのはご存知だと思います。

そんなアフタヌーンティーは、ウーバンアビーという館で誕生したのですが、当初は女性だけのお友達だけの少人数で行われていました。

しかし、その評判が広がるにつれて段々と原型が崩れていき、男性も参加する大きなパーティのように進化していくことになります。

そんな時に、男性はコーヒーも飲む人もいるためにソーサーだけを兼用にして、紅茶用のカップとコーヒー用のカップが誕生したと言われています。

このような歴史背景があり、ロンドンシェイプというのはイギリス人たちにとっても、使いやすい3点セットだったんでしょうね。

 

 

ビュートシェイプ 

ビュートシェイプ

口縁から底部にかけて、緩やかな膨らみを持たせ、コロンとした丸っこいスタイルに見えるカップのことです。

今までたくさんのカップ&ソーサーを販売してきましたが、この形が一番女性に人気があると思いますね。

高台がついているものよりも、柔らかでありスタイルが可愛らしいからだと思いますね。

現在では、一番スタンダードなスタイルなので馴染みやすいスタイルですよね。

 

マイセン Aカンテ

マイセン Aカンテカップ&ソーサー ビュートシェイプ1

マイセン Aカンテカップ&ソーサー ビュートシェイプ2

 

マイセン社の中でも人気のAカンテというモデルになります。

2つ花が描かれたバージョンと、今回のような5つ花バージョンが存在しますが、縁にあるネイビーが作品に締まりを与えて、気品のあるデザインになっております。

モデル名にある『Aカンテ』の名前の由来なのですが淵に金彩で装飾が描かれていますよね。

この装飾をひっくり返して見た時に『A』に見えることからAカンテと名付けられたのです。 

 


エトラスカンシェイプ

エトラスカンシェイプ

マイセン エトラスカンシェイプのカップ&ソーサー1

マイセン エトラスカンシェイプのカップ&ソーサー2

マイセン エトラスカンシェイプのカップ側面から見た構図

エトラスカン・シェイプは「エトルリアのシェイプ」という意味になります。

エトルリアはポンペイなどと同じイタリアの古代遺跡で、18~19世紀にかけて継続的に発掘され、そのデザインはヨーロッパ中のムーブメントとなりました。

この時の熱狂ぶりには、有名な磁器ブランドであればほとんどがそのデザインを学び、作品に落とし込むものがありました。

特に、ミントン社はポンペイの発掘に非常に力を入れており、当時のタイルをそのまま再現したほどです。

ミントン社のポンペイ遺跡への経緯については、こちらの動画で詳しく解説しておりますので興味のある方はご覧ください↓

そんなエトルリアで発掘されたものは、どんな形をしていたかというとさまざまあるのですが、このような感じでどちらかというと横広く、側面に耳がつけられているものでした。

エトルリア出土の陶器

そのエトルリア出土の陶器と共通のイメージを想起させるということで、エトラスカン・シェイプと名付けられたんですね。

このシェイプはロンドン・シェイプに匹敵するほど多くの窯で採用されており、人気のある流行の形でした。

横に広がった洗面器型をしており、より作りやすく、また洗うにもしまうにも使いやすい、機能的な形状をしています。


エトラスカン・シェイプのハンドルは、大きく分けて2種類あります。

エトラスカンシェイプ ハンドルの違い

左がマイセンのもので、右がコープランド社のものになりました。

マイセンの方は、ハンドルが片仮名の「フ」の字に似た“三角 (ヘアピン) ハンドル” であり、コープランドの方は尻尾を丸めた姿のへびが、口縁を咬む"へび型ハンドル” になります。

へび型ハンドルのカップは基本的に、製造数が少なく作例はあまりありませんが三角ハンドルのカップのほうには、バリエーションが多いのが特徴です。

こちらのスタイルも、どちらかというと女性に好まれていたようで、2つの作品から分かる通り大きなピンクローズが描かれ、とても華やかな印象を与えてくれていますよね。 

 

多角形のカップ

多角形シェイプ

カップの口縁は、弧を描いておらず面で仕上げられています。

飲みにくそうで、今にもインテリアが目的に作られた食器ですが、実際には8角形以上であれば飲みにくさはそこまで気になりません。

多角形シェイプのルーツは中国磁器であり、このようなスタイルをメインに扱われたアールデコ時代以前から存在していました。

 

ウェッジウッド

ウェッジウッド 多角形カップ&ソーサー

8分割された面体に、立体様式の花が描かれています。 

 伊真里や中国磁器からの影響を受けているのか、どことなくシノワズリの雰囲気も出ていますよね。

色彩も豊かで、メインの色に金、赤、白、そこに口縁部分にネイビーが入ることによって、締まりが出ておりすっきりとした印象を与えてくれています。

 

オールドノリタケ

オールドノリタケ 多角形のカップ&ソーサー

こちらも8面体で面取りされたオールドノリタケのカップ&ソーサーになります。

装飾はかなり華やかで、金彩の使い方、小窓に描かれた小華などはとても高級感があり、原色を使っているものの落ち着きがあり気品を感じさせます。

多角形カップは、必然的にソーサーも多角形になるためにテーブル上では一味違った楽しさを演出してくれていたことでしょう。

 

 

まとめ

最後にまとめなのですが、さまざまなスタイルがあってそれの成り立ちや名前を知ることによって、もっとアンティークカップの魅力が分かってくると思います。

そして、このアンティークのカップ&ソーサーというのは当時の富裕層に向けて作られたものも、多く残っているので職人技を感じられることも嬉しいポイントですよね。

素敵なアンティークカップがあれば、眺めていても実際にそれを使ってもとても素敵な時間を過ごすことが出来るのではないでしょうか😊