オールドノリタケの技法
オールドノリタケの技法
こちらでは日本を代表する高級陶磁器オールドノリタケの様々な技法について解説していきます。
オールドノリタケの技法を知ることによりノリタケの作品を深く理解するのと同時に
いかにノリタケの技法が難しい技法を使って作られたかが分かると思います。
日本を代表する陶磁器はそれほど手の込んだ作品を残しているということですね。
盛上技法(盛り上げ・もりあげ)
盛り上げというのは、オールドノリタケの中でも、最も代表的な技法となります。
立体的に陶磁器の表面を装飾する技法です。
その技法は、日本国内だけではなく欧米でも高度な技術であると認められているほどなのです。
欧米でこの技法は「MORIAGE」として知られています。
盛り上げの中にも、さまざまな種類があります。
・凸盛り
・一陳盛り
・筆(刷毛)盛り
・貼り付け盛り(ウエッジウッド社のジャスパー技法)
というようなものです。
このさまざまな盛り上げの中で、オールドノリタケによく使われているのは、一陳盛り、そしてその他の技法との併用が多く使われています。
とても繊細で緻密に作られた盛り上げが特徴となっています。
さらにそれだけではなく、その盛り上げにジュールや色彩、金彩などで華やかに彩られた装飾美となっているのです。
盛り上げ技法というのは、森村組時代にその製造がはじまりました。
そして盛り上げ技法は、日本の陶器時代の前半期まで製造されていたのです。
筆などを使い、泥漿を重ね塗りしたり、白生地の上にイッチンと呼ばれるチューブ状の器具を使用して泥漿を絞り出すなどする技法のことを「盛り上げ」というのです。
「盛り上げ」という名前の他に、この技法のことを「泥漿盛り」や「白盛り」という名前で呼ぶこともあります。
艶消しの白色でこの技法を施した部分は塗られています。
この技法は、点や線を描くことにより豪華に見せることもできるのです。
図案を書く以外にも、華やかに装飾することができます。
さらに、この技法に使う泥漿には絵具などを混ぜて使用することもあります。
泥漿ではなく、ガラス分の多い絵具を使用したときは「エナメル盛り」
(注1)という名前で呼ばれます。
このエナメル盛りは、光沢がある作品へと仕上がるのです。
「ダークウッドランド」パターンには、このエナメル盛りが使用されています。
この技法で作られた作品だけを集めているコレクターもいるのです。
製品は、飾り壺、水差し、花瓶、ティーセット、蓋ものというようにさまざまな種類があります。
さらに、デザインも豊富で、動物、風景、昆虫、草花、ドラゴンというように
ファンタジーなデザインもあるのです。
1890年代から1920年代(注2)に製造されていた作品です。
裏印として使用されているのは、初期マルキ印、マルキ印(英国登録)、M-NIPPON印、メープルリーフ印などがあります。
注1:ヨーロッパのアンティークなジュエリーによくエナメルは見られます。
そのように通常は金属板のようなものに、粉末のガラスを焼き付けて装飾する技法のことをいいますが、ここではエナメル風の作品という意味となっています。
注2:M-JAPAN印などは、ドラゴン画付けの製品に見られることもあります。
そのため、1920年代頃まで製造がされていたと考えられているのです。
さらに、森村組・日本陶器ではない会社では、「エナメル盛り」技法を使った日本風な武者絵などを描いた作品が戦後も製造がされていました。
一陳盛り上げ
一陳というのは、そもそも盛り上げを書くための道具のことを言います。
この一陳という道具は、江戸時代に作られました。
作ったのは、久隅守景です。
この守景の雅号が「一陳斎」と言いますが、この雅号から名付けられたと言われています。
もともと、一陳というのは京友禅や加賀友禅というような染糊線を書くためのものだったのです。
その中に、淡い色や白などの盛り絵具を、この一陳の中に入れるのです。
それを指で押しだしたりして、面、線、点などで装飾していく技法なのです。
一陳のたいはんは、柿渋を引いた紙で、口の部分においては真鍮でできています。
デコレーションケーキを装飾するときに使われるものと、よく似ています。
現在でも、スポイド式にはなっていますが、瀬戸・多治見のほうでは使われています。
金盛り
金盛りというのは、金色で盛り上げたように仕上げる技法のことです。
その方法としては一度、成形や焼付をしたあとの陶磁器の表面に、盛上げ技法で装飾を行います。
この時の、点や点線などは一陳を使って泥漿で描きます。
それが終わったら、その上に金液を塗りかぶせていくのです。
このときに使用されるのは、筆や刷毛です。
金盛りまでの工程が終わったら、再度焼付をして完成になります。
盛り上げ技法をベースにしており、その上から金彩を施す技法のことを「金彩盛り」というのです。
金点盛り(ビーディング)、アクアビーディング
「金点盛り(ビーディング)」と呼ばれる技法もあり、これは連続した点飾のことをいいます。
これは、装飾用として数多くの作品に使用されている技法です。
この作風はとても豪華です。
そのため「後期製品群」(日本陶器時代後半期)においても、装飾法として応用がされています。
前期から中期にかけての金盛りは手描きでしたが、後期に入ると製品にゴム印や転写などを利用して金盛り使用して図案を描くことはほとんどなくなりました。
この技法のほとんどは、装飾を施すために使われているのです。
これが、盛り上げ技法の作品とは、少々違う点でもあります。
エナメル技法のような、ガラス分の多い絵具を使用して作られた豪華な作品には、必ず金盛りが装飾として併用されています。
さらに、青緑色の小さなジュールをまるで金点盛りのように、全体に施している作品のことをアクアビーディングという名称で呼ぶこともあるのです。
作られている製品はさまざまな種類があります。
・飾り壺
・水差し
・花瓶
・蓋もの
・ティーセット
・飾り皿
というようなものが作られています。
1890年代から1910年代にかけて製造がされていました。
使用されている裏印は、マルキ印、メープルリーフ印、M-NIPPON印などがあります。
さらに、金点盛りはその名前のとおり、その点の上に金を塗っていかなくてはいけないのです。
水色の泥漿で点盛りしたものが欧米にありますが、それは「アクアビーディング」と呼ばれています。
なぜならそれは、水の泡のように見えるので、そう呼ばれているのです。
エナメル盛り(ジュール)
エナメル盛りというのは、オールド・ノリタケの金彩の仕上げとして併用して使われていた技法になります。
この技法は、作品を一層豪華に華やかに見せる仕上げることができるものとなっています。
その方法としては、金彩や金盛りの上にエナメル様の光沢があるガラス状の粒を載せていくのです。
エナメルの色絵具は、エチルカルビートという水溶性のものか、ソルベッツという油性のものも希釈剤で溶かし、粘点状に調合します。
それを、注射器のようなもので、抽出して装飾していくのです。
まるで宝石のように美しい仕上がりとなるので、欧米では「ジュール」という名前で呼ばれているのです。
ウェッジウッド風技法
英国のウェッジウッド社の代表と言えるものが、ジャスパー法を使用した作品です。
それは、カメオ状になっている型に嵌めて粘度で作った柄を貼り付けたものになります。
オールド・ノリタケにも「ウェッジウッド風」の作品があります。
ちょっと見るだけでなら、似ているようにも思えますが、オールド・ノリタケの作品は貼り付け法ではありません。
一陳や筆、竹べらなどを利用して作った盛り上げ法の一つなのです。
白生地を型抜きしてから貼り付け、製造する技法です。
希少品とされている製品のひとつでもあります。
英国のウェッジウッド社で作られていたジャスパーウェアを真似、そこに「盛り上げ」技法を丁寧に施している作品となっています。
作られた製品としては、コンポート、花瓶、鉢、ティーセット、蓋ものなどがあります。
1910年頃から1920年代頃に作られていました。
使用されていた裏印は、マルキ印、M-NIPPON印などがあります。
中には、日本陶器時代後期製品群に組するM-JAPANの裏印が使用された製品も製造されています。
しかし、これは「盛り上げ」技法で作られたものではありませんでした。
転写画で複製したものや、手描きしたタイプ、転写した人物がを組み合わせたタイプなどで製造されています。
盛り上げ技法の中でもウェッジウッドのような「盛り上げ」だけではなく「くもの巣盛り上げ」や「泥漿盛り上げ」、「レース盛り上げ」、「ガレ風盛り上げ」というようにさまざまな作品があります。
ガレ風盛り上げ
フランスのガラス工芸家、エミールガレの作品をイメージして作られたデザインでコレクターの間ではガレ風と言われています。
ガレの作品には夕焼けに佇む、風景の作品が多いためそのように言われるようになったと言われてます。
泥漿盛り上げ技法
精緻な泥漿盛上技法による飛翔龍図はドラゴン・シリーズとしてオールドノリタケの作品の中でも特に有名なシリーズです。有名でありながら製造された商品数自体も少ないので希少品として認識されています。
エッチング(腐らし)、ゴールドエッチング(金腐らし)
ノリタケには、昔から「腐らし」と呼ばれる技法があります。
これは釉を溶かして腐食させる技法です。
まず、作品の器に描かれた絵柄の中で、磁器のまま残しておきたいというものがあった場合、その場所にコールタール製の型紙を貼り付けます。
そして、塩酸、硫酸、硝酸とを混ぜた混合液であるフッ化水素の溶液の中に、決められた一定時間漬け込みます。
そうすることで、釉が溶けて腐食するのです。
しかし、コールタール製の型紙を貼り付けた部分は、腐食されることがありません。
磁器のまま残っているのです。
反対に、貼り付けていないむき出しの部分は、腐食し、艶がなくなり、窪(凹)みのような状態になります。
その場所に、金などの色を施すと、マットの色合いになるのです。
磁器のまま残った場所に、色を施すと、鮮やかでツヤのある金色となるので、その差は歴然としています。
さらに「虫喰いエッチング」と呼ばれている作品もあります。
これは、全体的に金色の輝かしい色合いをした作品なのですが、凹みの部分が虫喰いあとのような状態になっているので、そう呼ばれています。
これ以降、腐らし技法はノリタケにおいて代表的な技法となっていったのです。
腐らしが用いられているノリタケの作品は、高級洋皿の縁の部分や、大倉陶園の白磁にバラのエッチングがある花瓶などがあります。
しかし、現在では公害問題などが関係して、サンド・ブラスト法で作られています。
技法「エッチング」
エッチングという技法では、その装飾をする際に薬剤を使用します。
生地の表面を部分的に溶かし、そのことにより、表面に凹凸をつけ、デザインを表します。
さらにこの上から金彩を施す技法なのです。
日本でよく使われている名称としては「クサラシ」という言葉があります。
薄い金の板に凹凸をつけて、それを張り付けているようにも見えることから、その作品は大変豪華で華やかにも見えるのです。
特にファンシーウェアにおいては、このエッチングを装飾に施しているものが多くみられます。
図案化されたものまであるのです。
さらに、画付けだけではなく装飾としてエッチングの技法を施している製品もあります。
ディナーウェアでは、ボーダーのような製品の周囲の部分に、このエッチング技法が施されています。
しかし、金彩などと比べると、エッチングには大変手間がかかり、さらに技術的にも非常に難しいものとなっています。
そのため、エッチング技法を使われる製品は、高級品ばかりでした。
ですが、エッチングに使われる薬剤であるエッチング液は有害となっています。
そのこともあり、現在では「エッチング」技法ではなく、「サンドブラスト」技法が使われていますが、こちらもエッチング技法と同様に高級品にのみ、施されています。
エッチング技法が施されている製品は、コンポート、ティーセット、鉢、花瓶、ディナーウェアなどがあります。
1920年頃から1940年代頃に製造されています。
使用されている裏印は、ヤジロベー印、M-JAPAN印などです。
ファンシーウェアで使われている裏印は、高級品でもあるピンク色が使用されていることが多くあります。
タピストリー(布目仕上げ、つづれ織り)
タピストリーの特徴は、風合いが絵画のキャンパス地のようになっているところです。
まず、成形したばかりの柔らかい生素地の表面に荒い粗布のような布を貼り付けます。
そして布目に、素地の表面をつけてから焼き上げます。
焼き上げると、当然布は焼け落ちてしまいます。
しかし、その作品の表面には布目がしっかりとついているのです。
こういった作品には、光沢のあるグロッシー釉や、ツヤのないマットグレース釉などを使って絵が書かれます。
この技法での作品は、数が少ないので希少価値の高い作品となっています。
1900年頃から1910年代頃に製造されたと考えられています。
裏印に使用されているのは、ほとんどがメープルリーフ印です。
ですが、灰色の瀬戸生地を使用した初期製品の特徴的な製品が見られません。
さらに裏印のほかに、底面にはアルファベットや数字などが印刻されているので、日本陶器が設立されたあとの製品であるか、輸入された生地を使用されていたと考えられています。
モールド(石膏型にレリーフを施し、造形する技法)
この技法は、まず石膏で型を作るところから始まります。
制作した石膏の器に、人物や動物、植物などの浮模様を油で捏ねた粘土で作ります。
そしてカリ石鹸などを使い、これらのような模様が入った原型を作り、石膏などで使用型を作成します。
使用型ができたら、そこに泥漿を流します。
一定の時間が立つと、4~5ミリの厚さになった生素地が出来るのです。
その素地を800度から1100度で焼成すると、器が完成します。
完成した器に手描きで色をつけていくと、浮彫風なモールドが完成するのです。
技法「モールド」
モールド技法というのは、泥漿を石膏型に流し込んで生地に、立体的な浮き彫り(レリーフ)を画付けした製品のことをいいます。
轆轤を利用して作ることができない花瓶や、ポットといった製品もこのモールド技法を使って作られています。
図案デザインそのものにこの技法を使用することで、モチーフをリアルに表現することができるので、それを目的としてこの技法を応用していることもあります。
作られていた製品としては、飾り皿やハマキ入れ、灰皿、花瓶、ビアマグというように男性向けの製品が多く作られていたのが特徴でもあります。
これらの製品は、1910年代頃を中心として作られていました。
裏印にはM-NIPPONを使っているものが多く見られます。
しかし、日本陶器時代後期の製品群とされているM-JAPAN印も中にはあります。
ですが、このM-JAPAN印の製品は、製造された種類が限られています。
作られた製品はM-NIPPON印と同じモールド型の製品であっても、配色がよりカラフルなものへと変化しているのです。
それだけではなく、ラスター彩を使用した製品も製造されています。
マルキ印を付けられた製品が少ないので、ヨーロッパに向けて輸出されなかったのではないかと、考えられています。
絵付について
ここからは、絵付についてご紹介していきましょう。
ハンドペインティング(手描き)
手描きでの作品が多いことが、オールド・ノリタケが欧米でたくさんのコレクターたちを魅了し続ける理由の一つでもあるのです。
ノリタケ・ミュージアムの持つ1番古い(1895年頃)作品の1つには「西郷」と裏印された、ケーキ皿と花瓶があります。
西郷久吉が興した画工場の作品であると考えられているものです。
これは、西洋の食器と日本的な絵柄が出会ったもっとも美しい代表作とも言えるものです。
まず、金盛り上げで野の咲く花々や、蝶が描かれています。
そして地色は錦手と呼ばれる卵ぼかしなのです。
大正から昭和期にかけてのノリタケの作品には、日本の洋画界で著名だった画家たちも多く絵を書いているのです。
しかし、それらは絵画ではなく工業製品でしたので、画家のサインなどは刻まれていません。
最近では、オールド・ノリタケに興味を持ち、研究する人も増えてきています。
そのことから、こういった画家たちにも注目されるようになり、研究対象となっているのです。
転写絵付け
転写絵付けは、原価削減や作業効率をあげるために考え出された技法です。
この方法なら、同じ絵柄を大量に生産するので、生産性も向上します。
やり方としては、まず陶磁器用の絵具を台紙に印刷します。
次に、その紙を器に貼り付けて、模様を器に転写するのです。
すると紙だけ取り除いたときに、器に絵付けがされているという技術になります。
オールド・ノリタケで行われている転写絵付けは、転写単独ではありません。
他の技法と併用されていたり、金や銀であったり、多色であったりと、とても緻密な印刷技法が使われているのです。
転写紙が日本にもたらされたのは、明治23年(1890年)にドイツから輸入されたものが最初です。
しかし、ノリタケでは大正7年(1918年)にはすでに自社製造をスタートさせています。
ポートレート(肖像画)と転写紙
ポートレートは、先ほどご紹介した転写紙を利用して作られた作品です。
ワインジャグや、インディアンの飾り皿などにこの転写紙が使われているのです。
いずれも、ノリタケの作品の中で評価の高い作品群となっています。
プロシアの女王マリー・ルイーズや、レカミエといった婦人像。
ワインジャグの修道僧などの作品はイギリスから輸入した転写紙を使用して作った作品だと言われています。
ヨーロッパの窯などでは、同じ転写紙を使ったと思われる作品が多く見られます。
技法「ポートレート」
石板印刷された肖像画に、金盛り技法を多用した装飾を施している高級品となっています。
この肖像画にはヨーロッパから輸入した印刷済みの転写紙を使用しています。
なぜなら、当時の日本人画工には西洋人の顔を描くというのは、大変困難なことだったからです。
印刷というと、現在では廉価品のイメージがあるのではないでしょうか。
しかし、オールドノリタケの初期製品では、非常な高級品でだけこの印刷が使用されていたのです。
印刷されていた人物としては、ジョセフィーヌ皇后、ルイーズ女王、レカミエ夫人、マリーメディチ、マリー・アントワネット、ルブラン夫人というように、転写紙を輸入していたヨーロッパで人気があり、民衆に支持されていた女性などおよそ40種類が確認されています。
他にも、男性、インディアン、僧侶というような転写紙も確認されています。
作られていた作品としては、化粧具やカップのほかに花瓶や飾り壺などが多く作られています。
1890年から1910年頃に作られていたと考えられています。
裏印には、ほとんど、メープルリーフを使用されています。
しかし、マルキ印の使用された製品が見られないことから、転写紙を輸入していたヨーロッパへは輸出されていなかったようです。
ダミ
ダミというのは、磁器の上にある模様や地色を全部塗りつぶしてしまうことを言います。
金ダミや呉須ダミなどがあります。
模様に描かれた花や葉を1つの色だけで塗りつぶすことも、ダミ様式と言うのです。
これはもともと、絵画で言う「ダミ絵」が由来だと考えられています。
ぼかし
このぼかしという技法は、オールド・ノリタケの中で絵付の一部として多用されています。
絵具を濃い色から薄い色へと変化させていくことを「ぼかし」と言いますが、このときに使用されるのは、筆や刷毛やスプレーなどです。
これは日本の代表的な色付けの方法でもあります。
ぼかしの種類にもさまざまあり、「ビワぼかし(黄緑色)」、「薄ぼかし」、「墨絵ぼかし」、「卵ぼかし(黄色)」、「円子ぼかし(ピンク色)」というように絵の背景や地色を付けるときに使われています。
他にも、霧吹きを使って口で吹き付ける「吹きぼかし」や明治の中頃に登場した圧搾空気を利用した「エイログラフ」というスプレーなどもあります。
マーブル(大理石風)
彩色の方法として「マーブル」とアメリカのコレクターたちが呼ぶものがあります。
オランダ模様で作られている「踊る農民図」は、花瓶の首部と胴にマーブル模様が描かれています。
このときの彩色に使われているのは、筆とスプレーです。
コバルト(瑠璃色)
コバルト化合物というのは、青色顔料として窯業界で多く使われています。
一般的には酸化コバルトが使われています。
その中でも特にケイ酸コバルトが鮮やかな青色になるので、オールドノリタケでは多く使用されているのです。
1720年頃からドイツ官立製陶所マイセンによって製陶用が作られました。
コバルト色の中でもっとも名高いのは、フランスのセーブル窯によるものです。
これは「王者の青」としてヨーロッパの王室などでも、愛されています。
オールド・ノリタケでもコバルト金彩にバラの花が描かれたような、美しい作品がたくさん作られるなどして愛好されています。
「金盛り」が装飾として使用されているこの製品は、全体的に瑠璃と呼ばれるコバルト色で覆われているものが大半となっています。
この瑠璃色の透明絵具には「金盛り」と同じように、さまざまな製品に装飾として使われています。
両食のコントラストがとても美しいのが特徴です。
日本陶器後期製品群でも、装飾方法の一つとして利用されています。
作られた製品ついては、飾り皿、鉢、水差し、花瓶、飾り壺、ティーセット、蓋ものなどが多く見られます。
1890年代から1910年代頃に作られていたと考えられています。
裏印はメープルリーフ印、M-NIPPON印、マルキ印などが使用されていました。
漆蒔き
漆蒔きというのは、上絵の地色を、むらがないように塗るための方法として使われています。
まず最初に、器に筆で漆を塗ります。
次にタンポンなどを利用して、丁寧に漆を塗っていくのです。
現在では、タンポンではなくスポンジが使われています。
漆を塗ったら、その上から粉末絵具をふりかけ、色を付ける方法です。
大倉陶園では、現在でも手作業でこの方法が使い、カップやソーサーなどを作っているのです。
金液(水金)について
金液というのは、オールド・ノリタケで多く使われている金彩の顔料のことです。
金の延べ棒を濃塩酸と濃硝酸を体積比で3:1で混ぜて作った溶液である王水で溶かして、液体にしたものがこれです。
ラスター彩
ラスター彩というのは、アール・デコの作品で多く使われている彩色の方法です。
ラスターは、まず金属や貴金属などを王水で溶かします。
そして、硫化バルサムを化合させるのです。
その後、樹脂酸金属化合物を生成します。
それに絵付をしやすくするために、ロジン(松脂)を加えた液で絵付する絵具の種類の一つなのです。
700度前後の低い温度で焼くことで、真珠状の虹彩や金属状の光沢などができます。
しかし、ラスター彩は、洗剤や酸、熱湯などに大変弱いのです。
これらを使ってしまうと、ラスターがはげやすくなってしまいますので、注意しなくてはいけません。
器と絵のデザイン
オールド・ノリタケの作品は、多種多様なデザインがあり、絵付の方法もさまざまです。
だからこそ、コレクションしていても奥が深く魅力的で、興味が尽きないものとなっています。
オールド・ノリタケの製品は大きく2つに分けることができます。
ファンシーウェアと、テーブルウェアの2つです。
ファンシーウェアというのは、花瓶や飾り皿などのことです。
テーブルウェアというのは、食器類という意味があり、ティーセットやモカ(コーヒー)セット、カップ&ソーサーにケーキ皿、パンチボールセットというような食卓の上に置かれるようなものが作られています。
最近では、それらの作品を使用した茶道の道具立てを、愛好家たちが考えているのです。
ボールやファーナーに漆の蓋を付けるなどして、水差しとして茶会をしているのだそうです。
こういったことは、新しい楽しみ方の1つとして注目がされています。
オールド・ノリタケでは、そのほかにも、ひげカップ、ドレッサーセット、葉巻入れ、灰皿というような実用的な陶磁器も多く作られているのです。
絵のデザイン
オールド・ノリタケでモチーフとして、多くの花が使われていますが、その花の中でも特にバラは多く使われています。
西洋の花であるバラですが、そんなバラの花を日本的な構成で施している作品は、どれも見事で美しいものです。
オールド・ノリタケは日本国内ではなく、アメリカで特に好まれたデザインを多用しています。
特に、鳥や魚、虫などを含む動物や、植物に風景などをモチーフとした絵や、オランダやインディアン、エジプト、ギリシャ、アラブなどの絵柄を付けて、アメリカ国内での輸出拡大を計っていったのです。
しかし、もちろんいわゆるジャポニズムと呼ばれる日本風の作品も、数多く作られています。
アール・デコの陶磁器
オールド・ノリタケでは、1922年(大正11年)から1930年(昭和5年)にかけて、アール・デコ風デザインの作品を多く作り、輸出していました。
アール・デコは、当時の機能性を重視した新しいファッションの芸術運動でありました。
このアール・デコ時代に販売した陶磁器の数は世界で1番多かったと言われています。
ですが、そのことは当のノリタケ関係者にすら、長いこと忘れられてしまっていたのです。
このことを再発見したのは、ノリタケの関係者ではなく、陶磁器の歴史について研究していたアメリカにあるワシントン州立大学(シアトル)のハワード・コトラー教授のコレクション展がきっかけでした。
このコレクション展は1982年(昭和57年)に、ワシントンD.Cのスミソニアン美術館で開催され、その翌年には日本国内で開催されました。
そののちに、ノリタケのアール・デコ陶磁器は、再び世界で高い評価を得るようになったのです。
ノリタケのデザイン帳
ノリタケにはデザイン帳と呼ばれるものがあります。
しかし、このデザイン帳はただデザインをメモしているためだけのものではなく、制作用見本帳であり、セールスマン用の見本帳でもあったのです。
当時、カラー印刷というものなどは存在しませんでした。
そのため、一枚一枚丁寧に絵具で手描きで書かれているのです。
現在でも、それはとても綺麗な美しいカラーで残されています。
しかし、手描きですので、その製作部数はとても少ないのです。
残念ながらノリタケの会社で使用されていた、制作用見本帳は、第二次世界大戦の際にその多くが焼失してしまったと言われています。
さらに、その当時アメリカやイギリス国内で販売するために、持ち歩かれていたセールスマン見本帳に至っては、さらにその数が少ないと言われています。
ですが、そのセールスマン見本帳を見てから発注されたと考えられる器が、時々発見されるのです。
その中でも、デザインは同じだけれど、型が違うというもの、型は同じだけれどデザインが違うというようなものも発見されています。
デザイン帳に描かれた絵と同じ絵柄が揃っているものは、10組ほど存在しています。
その作品の中には、数字や赤鉛筆などで何か書かれているものがあります。
それらは、製造番号なのではないかと考えられているのです。
制作見本帳は、本のままの状態でノリタケ・ミュージアムに展示されています。
デザインモチーフ「ガレ・ウッドランド」
コレクターたちから通称「ガレタイプ」と呼ばれるのは、フランスのガラス工芸家エミール・ガレの作品を意識しているものです。
一般的なのは、夕焼けのオレンジタイプです。
しかし、朝焼けのブルータイプも存在するのですがこちらは
なかなか見かけることは出来ませんが美しい作品となっています。
さらに、ガレ風の作品の中でも森林風景をテーマとしている作品のことをホワイトウッドランドと呼んでいます。
盛り上げ技法を使って作品を仕上げているのが、ホワイトウッドランドです。
一方、エナメル盛りの技法を使って仕上げているのが、ダークウッドランドと呼ばれる作品です。
ダークウッドランドの花瓶
さまざまな種類の器がありますので、このダークウッドランドだけを収集するコレクターもいるほどです。
オールドノリタケ オリエンタルチャイナの刻印
記事、デザイン、技法の全てにおいてオールドノリタケと同党の品質の商品でありながら
現代になってもオールドノリタケの裏印であるということが証明されてないバックスタンプに
オリエンタルチャイナ印があります。
今回ご紹介する商品は盛り上げの技法を使ったシュガーポットとクリーマーになります。
シュガーポットはこちらの2つの作品はともにオールドノリタケが編み出した技法の
盛り上げが使われています。
この作風はオールドノリタケの作風とも同じであり、そうすると必然的に
オールドノリタケと何かしら関係のある会社でることが分かります。
当時の乱立したたくさんの陶磁器メーカーがある中で
各工場が苦心して創案した技法・意匠が他工場に漏れることも多かったと言われてます。
森村組ではそれらが流出しないようしっかりと管理していたと思われますが
画付けの商社が、類似のデザインの製品を画付け・販売した可能性も考えられます。
未だにオリエンタルチャイナ印はオールドノリタケとして認識されていませんが
その作風と品質からほぼオールドノリタケと言っても良いでしょう。
・・・以上、ノリタケのバックマークを3部門に分けてお届けしました
いかがでしたか?小さなマーク一つに込められた願いや、背景にますますワクワクしてきますよね!
ひとつひとつの歴史を見つめながら製品を集めて行くと、より一段と手にする喜びが深まりますよ。
これから、皆さんがノリタケの食器をお手に取ってバックマークを見たとき、
多くの作家との歴史、そしてオリジナルの洗練された製造技術が刻まれていることを思い出して頂きたいです!
気になった方はこちらの記事をもう一度参考にして、再確認してみてくださいね。
ここまで、長い記事にお付き合いくださり、ありがとうございました。
知識がより一層深まって、これまで以上に、多くの方々に
ノリタケに対して興味が増していただけたら嬉しいです。