クロノグラフ腕時計の機能と構造の解説

クロノグラフ大辞典 機構
図1

 

1、プッシュピース
2、ミニッツレコーディングジャンパ-
3、ミニッツレコーディングホイール
4、ミニッツハートカム
5、クロノグラフブリッジ
6、インターメディエイトホイール
7、フライバックレバーセコンドハンマー
8、ミニッツレコーデイングフィンガー
9、クロノグラフホイールハートカム
10、クロノグラフホイール
11、ドライビングホイール
12、フリクションスプリング
13、クロノグラフバーアーム
14、クロノグラフバースプリング
15、トランスミッションホイール
15a、クロノグラフリタイニングバースクリュー
16、クロノグラフバーキャリングトランスミッションホイール
17、クロノグラフバーエキセントリックプラグ
18、ピラーホイールジャンパー
19、オペレーティングレバーバネ
20、オペレーティングレバーホック
21、ピラーホイール
22、ミニッツレコーディングバー、エキセントリックプラグ
22a、作動レバーと作動車の嚙合調整ネジ
23、ミニッツレコーディングバースプリング
24、フライバックレバー
25、フライバックレバー押えバネ
26、ブレーキスプリング
27、ブレーキ
28、ミニッツレコーディングバー
28a、オペレーテイングレバー ショールダースクリュー
29、オペレーティングレバー
30、フライバックレバーミニッツハンマー

 

秒計測と時計の歴史

ウォッチのヘアスプリングとクロックの振り子は、1660年頃にオランダのクリスチャン・ホイヘンスの手によって開発されました。それまでは、脈拍を頼りに秒を計っていたのです。

ピサにある教会のシャンデリアが風で揺れるのを見て、ガリレオ・ガリレイは振り子の時計装置としての可能性に気づきました。

ガリレオは、自分の脈拍と振り子の揺れる時間とを研究したのです。

その結果、ガリレオは、振り子の揺れは大きいときでも、小さいときでも揺れるときにかかる時間が変わらないことを発見したのです。

このようにして、ガリレオは振り子の特時性を見出しました。

この原理を利用すると、天井から鐘を吊るし、その揺れを見ながら医者は患者の脈拍を測ることができるようになるかもしれません。

時計に分針と共に、秒針が付くようになったのは、時計の計時性能が増したからです。

それは、ヘアスプリングと振り子が時計に使われるようになったからです。

それから数年のときを経て、中心秒針がウォッチに付けられるようになりました。

秒針が12時の位置に来たときから、秒の経過を測ることができます。

しかし、秒針が12時の位置に来る前に計測を始めたい。

今、この瞬間から計測したい。

そんなとき、瞬間的に秒針を止め、経過時間を測る方法はないものだろうかと、考えられ始めます。

そのためには、まず時計の動きを止める必要があります。

時計の動きを止めるには、バランスかその近くにある歯車の動きを、小さなレバーが制御してブレーキの役割を果たしてくれれば、可能となるのです。

このようにして、秒針を止めてからその場所を記録した上で、ほんのわずかな秒数のズレもなく時計の動きを再開する方法が、考えられるようになりました。

天才時計師と呼ばれたジャン・モーゼス・ボウゼは、秒打ちの大型バランスで知られていました。

彼は1777年に、通常の時計の動きから独立した秒針を考案したのです。

そのとき、彼は弱冠23歳という若さでした。

そんな彼が開発したのは、2つの独立したトレイン(歯車の列)を搭載したウォッチだったのです。

彼が開発したそのウォッチには、エスケープ・ホイールと呼ばれる、がんぎ車のピニオンに「フラート」という小さなレバーがついていました。

通常のトレインのエスケープ・ピニオンの歯に、そのレバーの先端はかかっているのです。

「フラート・レバー」が1秒に1回ずつ完全に回転するのは、この仕組みがあるからなのです。

さらに、連動機構があるので中心秒針は1秒ずつ進んでくれます。

連続したバランスの動きが可能なのは、この2つのトレインがあるからです。

だからこそ秒記録用に使用してもその時計が止まることはないというところが、もっとも重要なポイントなのです。

しかし、中心秒針(フライバック)がゼロに戻る機能は1862年になるまで、登場しませんでした。

その意味で、本当のクロノグラフを発明したのは、スイスの時計職人であるアドルフ・ニコルだったのです。

彼が発明したのは、「クロノグラフのハート」と呼ばれるものでした。

この名前は、カムの形状がハート型をしていることから、こう呼ばれるようになりました。

以下の図は、この機構の基本概念を表したものです。

クロノグラフの基本とも言える、ストップウォッチとしての機能が書かれています。

2.3

クロノグラフ大辞典

クロノグラフについて

さて、これまでクロノグラフの歴史について少しご紹介してきました。

では、これからはクロノグラフのムーブメントとして代表的でもある、パルジャックスタイルを例に挙げながら、クロノグラフの機構についてご紹介していきたいと思います。

 

スタートアクション

まず、図の1をご覧下さい。

この図の1のプッシュボタンを押してみると、28aを中心に29のレバーがほんの少しだけ、回転するのです。

そうすると20のオペレーティングレバーフックが、時計方向に21の歯車を1つ分動かします。

図を見ただけでは、少々わかりにくい部分もあるかもしれません。

しかし、20は実は2段にカットされているのです。

上段の突起物は6ブロックにカットされています。

そしてそれは、6×3の18歯に削られた歯車(ラチエット)から出来ているのです。

24のレバーを押し上げるには、この歯車を1回転させる必要があります。

そうすることによって、7は9から。

30は4から離れるようになるのです。

そして、それと同時に13のレバーがほんの少しだけ、中心へと向かって動くのです。

そのように13のレバーが動くと、15のトランスミッションホイールが中心にあるクロノグラフ車10と噛み合うことにより、回転を伝え始めます。

この動きの際には、自動的に27ブレーキもクロノグラフ車からは離れていくのです。

分の計測

8はミニッツレコーディングフィギィアです。

クロノグラフ車には、このミニッツレコーディングフィギィアが、よく見てわからないほど小さな爪として出ています。

このミニッツレコーディングフィギィアは、クロノグラフ車と一緒に回転をします。

回転しているときに、0秒点を通過すると、6に引っかかります。

このときの動きは、3のミニッツレコーディングホーイールに、1目盛分の回転として伝わります。

ストップアクション

クロノグラフの計測を停止させるためには、1のプッシュボタンを再度押す必要があります。

このとき、16が外側の方向へ少しだけ移動しますが、24のブラックホイールは上に上がったままの状態なのです。

ですから、15はクロノグラフ車との噛み合いから自由になることができるのです。

この動きと同時に、27のブレーキは10に触れます。

この接触により、10の遊びを停止させるのです。

クロノグラフホイール10は、軸の先端に秒針という重い針がついているので、このブレーキがないと、フラフラとしてしまい正確な目盛を表示することができなくなってしまうのです。

リセットアクション

ストップしたあとに、再びプッシュボタンを押すことで、21のピラーホイールが回転し、クロノグラフの計測がリセットされます。

このとき、27のブレーキは、クロノグラフ車から離れます。

24のフライバックレバーは、25フライバックレバースプリングの弾性の力で、9と4のハートカムに強く接触をするのです。

このハートカムは、時計のリセットを可能にしたとても、驚くべき発明だったのです。

なぜならば、9と4のハートカムは、強く打たれることにより、3ミニッツレコーディングホイールと、10クロノグラフホイールをリセットしてしまうからです。

さて、クロノグラフの秒針が左と右のどちらを回転して、元の位置に戻るのかということは、9クロノグラフホイールハートカムと7フライドバックレバーセコンドハンマーの位置関係によって変わってしまいます。

だいたい、30秒から31秒が中心となります。

そのときのハートカムの位置とハンマーの打つ強さによって、どちら周りでリセットされるのかが変わってくるのです。

しかし、リストウォッチのクロノグラフでは、2つ以上のプッシュボタンが取り付けられています。

だからこそ、1度止まったクロノグラフの計測を、その場所から再開することが可能となるのです。

それを、リスタート積算式計算と呼びます。

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クロノグラフの種類

クロノグラフの文字盤は1種類だけではありません。

様式がいくつかあり、その機能の違いによって、文字盤も変わってくるのです。

1/5秒の単位を計測するものもあれば、1/100秒の単位を計測するものもあります。

他にも、デジタル表示を小窓に表し、1/100秒を記録しつつ、時、分、秒針を持っているクロノグラフもあるのです。

これらは、バランスホイールではなく、クォーツの水晶振動体でコントロールされています。

さらに、それだけではなくステップ・モーターの力で進んでいくホイールと、ピニオンで制御される針を持っているものもあります。

そして、4つのスタップモーターを持っているものもあるのです。

これらのステップモーターは、それぞれの針や液晶のデジタル表示をコントロールしているのです。

クォーツの力で、その精度はかなり高められました。

しかし、クロノグラフの場合は、精密な計時と、1/100秒のスタートやストップに関して手動で行われている限り、その精度には若干の疑問が残ります。

多くのクロノグラフの、中央にあるクロノグラフ秒針は1/5秒単位で記録していますが、それとは別に分を記録している針があります。

そして30分までの経過時間を測ることができるダイヤルもついているのです。

こういったクロノグラフには、経過時間を計測している積算計が多くの場合、ついているのです。

クロノグラフは、計測距離に対してのスピードを示していますが、それを精密に数値をプリントしているものもあります。

なぜなら、これはクロノグラフをタコメーターとして使用するためなのです。

軍での使用や、地理学調査などに利用されていました。

そのため、テレメーター表示が印刷されているクロノグラフも少なくないのです。

これは、何かがおこったときの現象の瞬間から距離を測るためです。

それは、光や大砲などがあたり、音が計測者のいる場所まで届くまでの時間を計算しています。

クロノグラフには、これだけではなく他にもさまざまな機能があります。

ここで少しその機能についてご紹介しましょう。

1.アワーレコーディング・クロノグラフ(時記録つき)

2.カレンダー・クロノグラフ(ムーンフェイズつき、なし)

3.ミニッツレコーディング・クロノグラフ(分記録計つき)

文字盤の種類にもいくつか種類があります。

1.テレメーター

2.タコメーター

3.アズモメーター

4.プロダクション・カウンター

5.パルスメーター

6.タイドインディケーター・カウンター

7.方位測定クロノグラフ

8.プロダクション・カウンター

というようなものがあります。

ではここで、主流となっているクロノグラフについてご紹介していきましょう。

タコメーター

タコメーターとは、決まった距離を移動する物の速度を測るために使用されます。

物が移動するその瞬間から計測を始めるときは、クロノグラフのスタートボタンをスタートと同時に押します。

そして、その物が距離表示や、トラッグなど何か目標となるものを通過したときに、寸分たがわず再度スタートボタンを押すのです。

すると、その時点までのスピードをクロノグラフは表示してくれます。

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テレメーター

(図6)テレメーターを使うことで、聴覚や視覚などの現象の距離を決めることができるのです。

海面レベルでの音速を測るときは、文字盤に印字されている軌道を利用します。

その現象を確認したらすぐにクロノグラフの針をスタートさせます。

そして、その音が観測している人間のところまで到達したら、ストップさせるのです。

すると、クロノグラフの針は現象発生の場所から、観測している人間の場所までの距離を示しているのです。

パルスメーター

(図7)15拍単位で脈拍を計測することが可能となっています。

主に医師が使用することを前提に作られています。

アズモメーター・クロノグラフ

(図8)内円がついていますが、それは1分ごとの呼吸の数を計測することが可能となります。

5回呼吸をしたあとに、クロノグラフを停止させます。

すると、針は1分間の呼吸数を示してくれているのです。

プロダクション・カウンティング・クロノグラフ

(図9)これは生産数を測るのに役立つ機能です。

主に、大規模な生産をするときに利用されます。

1個あたりの生産時間が60秒を超えない場合は、生産スケールUは、1時間あたりの率を示してくれます。

もしも、1個あたりの生産がとても短時間で出来る場合。

その場合は、複数個の生産にかかる時間が計測されるのです。

メメント・ダイヤル

(図10)分針と時針はとても小さくて、中央からも離れています。

これは、リューズを手動で動かして操作するのです。

このように操作して、事柄の時間を記録するのです。

ヨッティング・クロノグラフ

(図11)分記録計が6つのパーツに分かれているクロノグラフです。

そのパーツはそれぞれ、5分刻みとなっています。

ヨットのレースでは、レース5分前になると、警告ガンが鳴らされます。

しかし、この警告はクロノグラフのスタートを知らせるものでもあるのです。

ヨットマンに残り時間をクロノグラフが教えてくれます。

そのことにより、ヨットを有利な場所へ操作することもできるのです。

潮汐ダイヤルが、多くのヨット・クロノグラフには装備されています。

「ソルナー」ピリオドと同時に、公式時間も潮汐ダイヤルは教えてくれるのです。

それだけではなく、これはここと決めた港や緯度の潮汐時間も教えてくれます。

回転盤は4つのカラーに分けられており、特別な文字盤を彩っています。

満潮の時間を示しているのは2つのブルーの部分。

干潮を示しているのは、他の黄色の部分です。

場所によって潮汐の特徴を反映するために、色の文字盤をセットするための押しボタンもついているのです。

釣りに必要なのは潮汐時間だけではありません。

月の満ち欠けも必要な情報になります。

そのため、その時刻もしっかりと表示してくれるようになっています。

スプリットセコンド・クロノグラフ

(図12)クロノグラフの王者とも呼ばれるのが、このスプリットセコンド・クロノグラフです。

もっとも複雑で精密。

多くの部品を持ち、緻密に調整されていて、とても高価なクロノグラフなのです。

このクロノグラフは、競技者やいくつかのユニットを計測するために使用されます。

中心の秒針は2本あります。

一方が他の上に重なっているのです。

コマンド・ボタンAを押してみてください。

2本の秒針が同時に動きをスタートさせます。

このクロノグラフでの計測方法をご説明しましょう。

たとえば、1つのレースに2人の競技者がいると仮定しましょう。

彼らが1マイル走ったときに、ボタンOを押してください。

こうすることにより、クロノグラフ針が動いているときに、スプリットセコンド針Nを止めるのです。

このときに示されている時間をメモしてください。

メモをしたら、再び同じボタンを押しましょう。

すると、スプリットセコンド針はクロノグラフ針のところまで飛び、そこから計測をリスタートさせるのです。

そして最初のランナーがゴールしたときにボタンAを押してください。

このときの勝者がゴールしたときの時間をメモしてください。

そして他のランナーがゴールしたとき、ボタンOを押します。

このことにより、クロノグラフ針は止まります。

そのときに表示されているのが、後からゴールしたランナーのタイムとなるのです。