クロノグラフ腕時計 レーシング・クロノグラフの歴史

クロノグラフ腕時計 レーシング・クロノグラフの歴史


19世紀終わり頃からその歴史が始まったクロノグラフは、同じ頃に登場した自動車とともに、大きな進化を遂げてきました。

自動車が世間一般に普及していき、モータースポーツも盛んになる中で、必要な機能を発展させてきたレーシング・クロノグラフについて、今回はご紹介したいと思います。

 

 ホイヤーは、創業当初からスポーツ計時に積極的に関わってきました。そんなホイヤーが1916年、世界で初めて、1/100秒単位で計測可能という画期的なストップウォッチ「マイクログラフ」を発表しました。

こちらはオリンピックの公式計時にも採用され、ホイヤーはスポーツシーンに不可欠なブランドとして認識されるようになりました。

 

そして1933年には、世界初のレーシングカーと航空機用のダッシュボード・クロノグラフ「オータヴィア(Autavia)」を発表します。automobile=自動車と、aviation=飛行から名付けられました。

 

 

1957年には、オメガが現在でも大人気のクロノグラフ「スピードマスター」を発表します。NASAの公式時計に採用され、宇宙へ行ったムーンウォッチとしても有名なこちらのモデルは、もともとは、スポーツカーのダッシュボードからデザインのヒントを得て作られたものでした。

  

1958年、ホイヤーは「ラリーマスター」を誕生させました。こちらは、8日間巻き上げることなく動き続ける8日巻き時計「マスタータイム」と、60分計、12時間計を備えた「モンテカルロ」を合わせた、レース用のダッシュボード・クロノグラフです。国際ラリーや長距離レースで大活躍しました。

 

1964年には、シンプルなクロノグラフ「ホイヤーカレラ」が登場します。これは、世界で最も過酷だと言われていた自動車レース「カレラ・パンアメリカーナ・メキシコ」にインスパイアされてできたモデルです。こちらはすっきりとした美しいデザインで、今でもタグ・ホイヤー社の人気モデルであり続けています。

 

その5年後の1969年には、他社と共同で開発した世界初の自動巻きムーブメント「クロノマティック」を搭載した、「ホイヤーモナコ」を発表しました。自動巻きのみならず、世界初の角型防水ケースを採用した、最先端のクロノグラフです。こちらは、映画俳優スティーブ・マックウィーンに愛用されたことで有名で、彼が主演したカーレース映画『栄光のル・マン』でも使用されました。

 

 時間は前後しますが、1963年に登場し、クロノグラフ界を席巻したロレックスの「デイトナ」は、アメリカのフロリダ州にあるサーキット「デイトナ・インターナショナル・スピードウェイ」からその名をつけられました。

 

 

こうして、自動巻きキャリバーの登場でますます発展していくかに見えた機械式時計ですが、「クロノマティック」や、ゼニス社の「エル・プリメロ」が登場したのと同じ1969年、世界初のクォーツ式腕時計が発売されたのです。ここから、空前のクォーツ式時計ブームとなり、機械式時計一筋でやってきたスイスの時計産業は壊滅的な状態になってしまいました。いわゆる、「クォーツショック」です。

 

さらに、1970年代初頭のグランプリレースでは、1/100秒単位の計時が必要とされていました。機械式時計の限界も見えてきたところですが、ホイヤー社は電子計時でも他社を一歩リードしていました。それが、1965年に開発した、1/1000秒まで計測できる小型電子スポーツタイマー「マイクロタイマー」です。

 

そして、1971年には、F1のフェラーリチームのために、やはり1/1000秒単位の計時が可能なセンティグラフ「ル・マン」を開発。その後1979年までフェラーリチームの公式計時を担当。チームの前代未聞の連続勝利に貢献したのでした。

こうして、モータースポーツの世界でも電子計時が採用されるようになり、世界的に、クォーツ・電子計時がスタンダードとなっていったのでした。

 

 

クォーツ腕時計の登場からしばらく苦汁をなめた機械式時計メーカーでしたが、1980年代になると、伝統的な機械式クロノグラフに復権の兆しが見えてきます。

機械式腕時計から感じられる、伝統の奥深さ、精巧で緻密な技術の高さ、アナログに時を刻む味わい、また、耐久性の高さなどが再評価されたのです。それをきっかけに、スイスの時計メーカーは再び、機械式時計に取り組み始めました。

こうしてみごと復活を果たした機械式クロノグラフは、若者向けに新モデルを次々登場させました。

 

モータースポーツの発展に多大な貢献をしてきたタグ・ホイヤーは、過去の名作「ホイヤーカレラ」「ホイヤーモナコ」の復刻版を発売しました。

 

オメガは、F1レーサーのミハエル・シューマッハをイメージキャラクターにして「スピードマスター・レーシング」を発表。前述のとおり、ムーンウォッチのイメージが強いものの、本来はカーレースをターゲットにして作られた「スピードマスター」が、ここでようやく、レーシング・クロノグラフとして堂々参戦したのでした。

  

ジラール・ペルゴは、フェラーリと提携し、フェラーリの跳ね馬のエンブレムをあしらった「フェラーリウォッチ」を発表します。

  

このようにモータースポーツとコラボレーションしたクロノグラフが続々登場しました。そして、その多くが機械式キャリバーを搭載したものであるというのが、特筆すべき点といえるでしょう。