クロノグラフ腕時計 航空パイロットたちの命綱 パイロット・クロノグラフ

大空に羽ばたきたいという欲求が生んだクロノグラフ

青く、どこまでも広い大空を好きなように、思うがままに飛んで回りたい。人類は長きにわたって、その願望を抱いていました。

多くの失敗と、挫折、多額の費用をかけながら、ついに1891年、ドイツのリリエンタールがグライダーでの飛行を成功させます。

その後、1903年になるとアメリカのライト兄弟が、人類ではじめての動力飛行に成功するのです。

ライト兄弟のフライトは、ほんの12秒。

距離にしてわずか36.5mだったと言われています。

しかし、この距離は人類の夢がついに叶った距離でもあったのです。

その後、フライトの最長記録は4年後の1907年に打ち立てられます。

ブラジルの大富豪サントル・デュモンが樹立したのです。

このフライトの際に、デュモンは友人であったカルティエの3代目当主ルイ・カルティエに「飛行機を操縦しながらも見ることができる腕時計」をオーダーするのです。

このときに使用されたモデルこそ、後に「サントス」と名付けられたモデル。

世界ではじめて誕生した、実に実用的な腕時計でした。

航空機の発達は、目覚しいものでした。

いつしか航空機は、人類の夢ではなく、輸送手段の1つにまでなったのです。

それに伴い、必要なものも出てきました。

航空機を安全に飛行させるためには、燃料の残量を知るために、正確な飛行時間を知るためのタイムギアの必要性が出てきたのです。

そのためには、これまでベーシックだった3針式では役不足でした。

そこで採用されたのが、ワンプッシュで計測をスタートし、同時に経過時間まで知ることができるクロノグラフだったのです。

ライト兄弟がはじめて動力飛行を成功させてから、早12年後の1915年。

ブライトリング社から、30分積算計とセンタークロノ針のついた世界ではじめての、腕時計型クロノグラフが販売されることとなったのです。

この初代クロノグラフは、ブライトリングの創業者、レオン・ブライトリングの息子であるガストンが制作したモデルでした。

このモデルは、パイロットが目的地へつくまでの飛行時間を正確に測ることのできる、とても優れたモデルだったのです。

さらに忘れてはいけない人物の存在があります。

それは、アメリカ海軍の将校であり、アナポリスの海軍士官学校指揮官でもあるフィリップ・ヴァン・ホーン・ウィームス大佐の存在、そして1927年に大西洋を単独でさらに無着陸で飛行することに成功したリンドバーグの存在でした。

ウィームス大佐は、リンドバークの師とも呼べる存在だったのです。

1929年に、ウィームス大佐は回転ベゼルによる円形計算尺を考案します。

さらに、飛行士が時計で正確な位置を把握することができるシステム、通称アヴィゲーション(ロンジン社とウィームス大佐の作った造語)ウォッチを、ロンジンに依頼して完成させたのです。

これこそが、後の「リンドバーグ」モデルのベースとなったモデルです。

第一次世界大戦勃発により需要の拡大

そもそも、実用的な時計の歴史というのは1899年から1902年にかけておきた南アフリカ戦争が発端とも言われています。

南アフリカに移民してきたオランダ系ボーア人たちが独立を求めるために起こした運動です。

このときに、ボーア人たちを鎮圧するために派遣された英国陸軍の将校や兵士たちが使用していたタイムルーツがそもそもの腕時計の基礎となったものとも言われているのです。

今のように腕時計がなかった時代、その当時一般的だった懐中時計を革でできたホルダーに収め、それにストラップをつけ、腕に巻きつけたさまを伝えた資料も存在しています。

このときの陸軍兵士が「開発」した腕時計が有用であると、認められ、広まってきたのです。

その後、パイロットたちからも腕時計型のクロノグラフを希望されるようになりました。

1915年には、世界ではじめての腕時計型クロノグラフの開発が行われます。

それは、第一次世界大戦の最中の出来事でした。

戦争は、上空で行われる空中戦が重要視されていたせいもあり、パイロット用クロノグラフは一気に発展をしていくのです。

ブライトリング社は、1923年にリューズから独立させたプッシュボタンを発明し、特許の取得に成功します。

さらに、1934年には「プルミエ」を販売。

これは、2つのプッシュボタンを採用したモデルです。

1936年になると、ブライトリング社は英国空軍の公式サプライヤーとなるのです。

そしてブライトリング社は、コックピット用クロックを生産していきます。

その一方で、1935年にはIWCが「マーク」を発表します。

これは、飛行機の中で欠かせない耐磁性エスケープメントを内蔵している、3針式パイロット時計だったのです。

コックピットの中に差し込む強い太陽光を想定し、ブラックダイヤルと鮮明な蛍光のインデックス、そして強い重力にも耐えることができる破損防止風防、さらに飛行経過時間をマーキングできる回転ベゼルまで備えたモデルでした。

これは、この先のミリタリー、パイロット時計のベースとも言える存在になったのです。

第二次対戦に入ると、もはやクロノグラフはパイロットにとって必要不可欠な存在となっていました。

旧西ドイツの国防省は、ホイヤー社のクロノグラフを採用しています。

そして問題は、コックピットの中で発生する強い磁気対策になってくるのです。

IWCなどの実力あるブランドが手がけてはいたのですが、その中でももっとも優秀なアンチ・マグネティックと呼ばれるクロノグラフを搭載していたのは、ロレックスだったのです。

このアンチ・マグネティックは、「デイトナ」より前のロレックス社のクロノグラフに採用されています。

クロノグラフの急速な進化

1942年、航空パイロットウォッチに大きな出来事が起こります。

それは、ブライトリングが発表した、ベゼルに円形対数計算尺を組み込んだ「クロノマット」の登場です。

さらに、その「クロノマット」の進化版とも言える「ナビタイマー」が登場するのです。

「ナビタイマー」は、航空計算尺を組み込んでいました。

クロノマットも、ナビタイマーも計算尺の効果で、距離や速さ、そして消費する燃料など飛行に必要な計算をすることが可能だったのです。

「ナビタイマー」にいたっては、国際パイトット協会に公認されたクロノグラフともなったのです。

このように、進化を続け、大空との絆を深くしていくクロノグラフですが、1950年代に入るとさらなる飛躍を遂げるのです。

それが「スピードマスター」の誕生でした。

スピードマスターは、1957年にオメガ社が制作したものです。

これまで、英軍が使用していた「シーマスター300」のケースや針などを使用しています。

スピードマスターは、高い機密性を確保しています。

それは、ケースを3重にシールドさせ、Oリングを装着させることで可能となったのです。

これにより、スピードマスターはNASAの宇宙飛行士たちが使う標準装備品にまで上り詰めました。

その後、人類史上はじめての月面着陸をもサポートするようになるのです。

1969年になると、スピードマスターのバリエーションの1つとして「フライトマスター」が誕生します。

これは、パキスタンのエアフォースも使用したと言われているものです。

フォルティス社は、1926年に世界ではじめての自動巻き腕時計「ハーウッド」を開発し、その後もコスモウォッチの制作に力を尽くしています。

そして、1961年にロシアのユーリー・ガガーリンが人類ではじめての宇宙飛行を実現しましたが、その際にサポートをしています。

現在のフォルティス「オフィシャル・コスモノート・クロノグラフ」は、ロシアにあるガガーリン宇宙訓練センターに公認を受けた装備用具の1つでもあるのです。

さらに、日本も負けじと活躍をしています。

日本のメーカーであるセイコー社は、1969年の12月に世界ではじめてのクォーツ腕時計「アストロン」を発表しています。

その後は、やはりこちらも世界ではじめてのクォーツ式クロノグラフ・ムーブメントCal.7A28を開発するのです。

これは1983年から1993年までのおよそ10年間、製造が続けられ、英軍に提供されたのです。

一方、スイスのクォーツ時計も負けてはいませんでした。

話題になったのは、1995年にブライトリングが発表した「エマージェンシー」です。

このエマージェンシーは、国際航空避難信号周波数である121.5MHzでSOSを発信することが可能な高い精度を誇るクォーツ式クロノグラフを装備しています。

ブライトリング社は1999年に世界に向けて「21世紀に向けて、全時計製品をクロノメーター化する」と宣言をしました。

その宣言通り、ブライトリング社はこれまでの機械式ムーブメントを実装したモデルを、さらに高いクオリティのものへと変化させていくのです。

パイロットクロノグラフの変遷

クロノグラフの魅力と言えば、やはりコックピットを連想させる精悍なダイヤルフェイスなのではないでしょうか。

これは、航空パイロットのサポートという歴史と一緒に進んできたメカだからこそだと思われます。

そこで、そんな航空界をサポートしてきた実力派モデルたちを中心にチョイス。

この頃、人気上昇中のIWC「メカニカル・フリーガー・クロノグラフ」やブライトリングの新作「ナビタイマー」。

そしてウィームス大佐の名前が付けられたニューカマーなど。

現在もお店に行けば入手することができるアイテムたちをご紹介していきます。

IWC メカニカル・フリーガー・クロノグラフ

パイロット時計としての評判は、1933年代からあったIWC。

本格航空時計のスペックをしっかり装備したモデルとなっています。

インケースは軟鉄。

これにより、4万A/mの耐磁性能を実現しています。

さらに、サファイアドーム型の風防を搭載しているのです。

自動巻きで、Cal.7922を搭載。

価格は54万5000円。

ナビタイマー・ブライトリング・ファイターズ

SSケース&ブレスタイプの価格は41万円。

本革ベルトタイプの価格は33万円。

自動巻きで、裏側に6機の戦闘機名を刻印してあります。

ベースとなっているのは、「オールドナビタイマー」です。

これは第二次世界大戦で活躍していた6機の戦闘機をイメージして作られた、「ファイターズ」プロジェクトの新作となっています。

ウィームス・クロノグラフ

裏面はスケルトンになっている、少し変わったモデルです。

1930年に、ウィームス大佐がナビゲーションウォッチの礎を築いたことを称え作られたモデルの復刻版となっています。

自動巻きで、ミネラルクリスタル風のデザインがスタイリッシュです。

SSケース&ワニ革ベルトとなっており、価格は16万5000円。

パイロットクロノグラフプロフェッショナル

写真は航空飛行士用のモデルとなっています。

高速飛行中であったとしても、視認性が高く、精悍なダイヤルデザインとなっています。

ロシアにあるガガーリン宇宙訓練センターで訓練された、宇宙飛行士用に公認されたクロノフを作っているのがフォルティスです。

自動巻きでSSケース、ブレスとなっており、価格は14万4000円。

メガポッド・クロノグラフ

パイロット用に制作されたGMT。

左側面にクロノグラフのプッシュボタンをつけています。

自動巻きで、チタンケース、ラバーベルトとなっており、価格は62万円。

マイケル・ジョーダンが愛用していることで知られる、インテリアデザイナーのマーク・ニューソンがデザインを担当。

エアスピード・クロノグラフ

42時間のパワーリザーブを実現しているモデル。

価格は16万5000円。

視認性が高い状態で保持される無反射コーディング風防。

精密航空機器の制作にも評判のあるブランド、レビュー・トーメンの自信作。

本格スペックを装備しており、バルジュー7750を搭載している。

SSケースとブレスを使用。