シルバーポット(silver pot)の起源から歴史をご紹介!

イギリスの聖職者であり作家でもあったシドニー・スミス(1771~1845年)は大変なお茶好きで、「お茶というものがなければ、この世はいったい、どうなってしまうのだろうか。お茶がない時代に私が生まれなかったことを、うれしく思います」という言葉を残しています。

シドニー・スミスがいかにお茶好きかわかる言葉ですが、当時の人々がティータイムをどれだけ楽しみしていたのかを垣間見ることもできます。



今も人々を魅了してやまないティーアイテムのひとつであるシルバーポットの起源はお茶の文化の発展により始まります。


もたらされたお茶の文化

1610年、オランダ人の商人がヨーロッパにお茶を持ち込んだのが最初とされていますが、当時はまだお茶は西洋人にはほとんど知られていませんでした。

それまでイギリス人は1日の始まりにビールやエールを飲んでいたのです。

エールもビールの一種ですが、このエールは、中世においては主食だったパンと一緒に摂る飲み物でした。


今のようにコーヒーやお茶、チョコレート(18世紀中頃までチョコレートは飲み物として流通していました)などの飲み物は、諸外国との貿易が拡大しはじめた17世紀頃にヨーロッパに広まったというのですから驚きです。



ティータイムと言えばイギリスの古くからの文化のようですが、実は当時の人々の生活習慣に大きな革命とも言える変化を起こしていたのです。



おいしいコーヒーやお茶を喜んで受け入れる人々がいる反面、異種文化を取り入れることを避難する人々もいて当然です。男尊女卑の風習が残る中、コーヒーハウスがありましたが、あくまでも男性の社交の場でした。



そんな中、お茶が広まることで今で言う喫茶店にあたるティー・ガーデンが誕生します。文字通りお茶を楽しむ場所です。人々の社交の場として急速に広がりをみせ、男性だけではなく女性も子供も楽しむことができるティー・ガーデンでアフタヌーンティーの作法などの文化が誕生するのです。

お茶という飲み物がもたらした新しい文化、それはティータイムを彩るアイテムの誕生へとつながります。


イギリスの植民地だったアメリカにもお茶の文化はすぐに取り入れられました。ロンドンをモデルにつくられた喫茶店はイギリスのティー・ガーデン同様、意見交換や情報交換の場として人々が集いました。


こうしたお茶の文化の急速な発展により、お茶を飲むため、また楽しむための器具が必要となるなか、銀食器や陶磁器にスポットがあてられます。アメリカの銀細工職人らはイギリスや大陸を真似てお洒落なコーヒーポットなどを作りあげていきます。

 

 

  

 

お茶にまつわる歴史

これほどまでに人々に受け入れられたお茶を政府が野放しにするはずはありません。1760年代にイギリス政府はお茶に税金をかけました。


納得など出来るはずのない入植者たちはお茶を密輸したり、煎じ薬を飲み、ついにはデモを決行するなど抵抗をみせ、1773年12月にはボストン茶会事件が勃発します。



お茶にこれほどまでの力があるものとは信じられませんが、政治的な争いが解決されるとアメリカ人はまたテーブルを囲んでお茶を楽しんで過ごすことが出来るようになりました。


椅子に座って親しい人々とお茶を飲んで過ごすことが普通であり、大切にされてきた当時の文化を見習いたいものです。

機能性とデザイン性に長けたシルバーコーヒーポット

※アンティークシルバーコーヒーポット 1725-35年頃
アンティークシルバーコーヒーポット 1725-35

 

アンティークシルバー製品を手に取ると当時の文化や流行を知る手がかりになります。

アンティークシルバー製品が醸し出す独特の古めかしさの中に垣間見える美しさは、今のどんな技術をもっても再現することは出来ません。


当時の人たちが使っていた痕跡のひとつひとつになんとも言えない愛着が湧いて来ます。



コーヒーやお茶などに欠かすことが出来ないコーヒーポットにも当時の銀細工職人たちのこだわりと技術が詰まっています。



銀製品はとても熱伝導に優れているのでコーヒーポットは注ぐ際に熱伝導率に高い銀で手が熱くないよう木製の取っ手がつけられています。

機能性だけではなくレトロ感が増して、とてもオシャレです。

使い込むほどに風合いも良くなっていきます。



フランスの宮廷サロン文化の最盛期だったロココ時代には、梨を逆さにした形が流行しましたが、18世紀後半は柱脚をついた骨壷型のシルバーポットが主流になりました。

機能性に加え、当時の流行が反映されたアンティーク製品には歴史が感じられます。



※シルバーコーヒーポット 1800年頃

コーヒーポット 1800年頃



 

チョコレートシルバーポット

冬に飲むととてもお美味しいホットチョコレートですが、18世紀頃は高級だったチョコレートは王族や上流階級の人が朝食の時に飲んでいたそうです。
 

チョコレートポットというものを知っている人は少ないかもしれませんが、その頃はココアバターが濃厚だったため、とろみがあり食卓に出す前に温められていました。
 

チョコレートポットの蓋は取り外しができるタイプや蝶番で蓋が開けられるようになっているタイプがあり、取り外しが可能な攪拌棒がついていました。

温めたチョコレートを攪拌棒で混ぜると、きっと濃厚な香りが食卓に広がったに違いありません。



※シルバーチョコレートポット 1700-1710年頃

チョコレートポット 1700-1710


テーブルを飾るシルバーティーポット

イギリスの植民地だったアメリカには、入植者たちによってお茶ももたらされました。

当時の財産目録には、茶器が含まれていた事からお茶の飲み方がすでに確率されお茶の道具が財産として扱われて人々の生活に根付いていたことがわかります。



初期の茶器は輸入によるものでしたが、18世紀初頭頃には、アメリカ人の銀細工職人が独自の茶器を制作していました。


※シルバーティーポット 1690-1700年頃

ティーポット 1690-1700


※シルバーティーポット 1745-55年頃

ティーポット 1745-55

ここでもやはり流行があり、最初は球体や梨型だったものが徐々にリンゴ型のティーポットが一般的になっていきます。


梨型もリンゴ型も、どちらもやわらかな丸みを描き手触りがとても良さそうです。


リンゴ型から次に主流となったのは、新古典主義様式を反映したまっすぐな注ぎ口が印象的な、ドラム型や楕円形のシルバーポットが誕生しました。

施される細工も、どんどんと洗礼され手の込んだものになっていきます。



ただの道具ではなく、楽しいティータイムを演出するアイテムとして扱われていた事がわかります。


※シルバーティーポット 1782年頃

ティーポット 1782年頃

※シルバーティーポット 1796年頃

ティーポット 1796


※シルバーティーポット 1800年頃

ティーポット 1800年頃

広がりを見せるシルバーの道具

ティーポットだけではなく、シュガーボウル、クリームポット、そして湯沸し、お湯入れなどテーブルを飾る茶器は、その種類を増やしていきます。
時には茶葉を入れる缶もペアで作られたり、トレーも必要になっていきます。


※シルバーのシュガーボウル 1765年頃シュガーボウル 1765年頃

 

※シルバーのシュガーボウル 1795年頃

シュガーボウル 1795年頃

※シルバーのシュガーボウル 1800年頃

シュガーボウル 1800年頃

※シルバーのクリームポット 1763年頃

クリームポット 1763


※シルバーのクリームポット 1763年頃

クリームポット 1795年頃


※シルバーのクリームポット 1800年頃

クリームポット 1800年頃


※シルバーの湯沸かし 1710-20年頃

湯沸かし 1710-20


※シルバーのお湯入れ 1791年頃

お湯入れ 1791

 

カップに注いで飲むだけのお茶がいつの間にテーブルウェアの世界を広げていきました。

当時の人々は、テーブルに並ぶ茶器に手を伸ばしながら日常会話を楽しんでいたに違いありません。


※シルバーの茶葉入れ 1725-40年頃

茶葉入れ 1725-40


※シルバーのお盆 1725-35年頃

お盆 1725-35頃


 

時代を反映するシルバ

シルバーに施された細工やデザインから当時の文化や流行を感じ取る事が出来るのがアンティークシルバーの素晴らしいところです。

200年以上の時を人々と共に過ごしてきた茶器に趣があるのは当然です。

大切に扱うことでこれからもまだまだ長い時を人々と過ごしてくれるシルバーの品質は永遠に衰えません。



1790年代にフィラデルフィアを訪れた外国人のモロー・ド・サンメリーは温かいもてなしを受けた時の感動を「家族全員がお茶を飲むために集まり、友人、知人さらには他人も招待されている。」と記録に残しています。



多くの種類が人々に普通に飲まれているお茶やコーヒーが今のように生活に根付くまでには長い歴史とそれに寄り添う茶器の進化がありました。

時代の流れをうまく汲み取り美しさと機能性を備えたシルバー製品を残してくれた職人の技術を実際に手に取り、コーヒーやお茶を楽しむのは最高の贅沢となるはずです。