小さな空間に詰め込まれた職人の技術:ユニバーサル・ジュネーブ マイクローター(マイクロローター)
小さな空間に詰め込まれた職人の技術:ユニバーサルジュネーブ マイクローター
ユニバーサルジュネーブ社の代名詞的存在であるトリコンパックスと共に世界の時計ファンたちを魅了し続けている一つの腕時計があります。
腕時計に様々な機能が追加され、その複雑化に伴い厚みを増していかざるを得なかった時代。
機械時計のムーブメントに人々の心を引き付けるエレガンスが備わった一品こそが、今回の主役「マイクローター」なのです。
ユニバーサルジュネーブ社がその類稀なる技術力で軽量化に成功した革新「マイクローター」について今日は見ていきたいと思います。
※ここでは一般的に仕組みについて述べるときは「マイクロローター」、ユニバーサル・ジュネーブの発明した仕組みについて言及するときは「マイクローター」とします。
写真は1950年代のマイクローター搭載の腕時計。
はじめに
マイクロローターの発明はそれまでの腕時計の認識に新たな風を吹かせたと言っても過言ではないでしょう。機能性にエレガンスをもたらしたマイクロローターとはその名の通り、「小さな」(=マイクロ)、「回転部品」(=ローター)を指します。このローターの小型化こそがその後時計界に大きな革新をもたらしたのです。
ムーブメントという限られた空間の中に、多くの時計職人たちの技術と知恵が詰まっているマイクロローターは時計ファンに楽しみとロマンを与えているのです。
マイクロローターの軌跡
古代から続く人々と時計の歴史のなかで、マイクロローターの歴史は比較的新しい発明です。その始まりは1954年だと言われています。当時ビューレン社がマイクロローターの仕組みを発明し、特許を取得しました。この特許は時計に機能性と同時にデザインの美しさを兼ね備えた名品を作ることができる画期的なものでした。画像はビューレン社が特許申請した図面。
その翌年、1955年にユニバーサルジュネーブ社がその特許を買い、発表した時計がマイクローターです。最初に発表したモデル、キャリバー215と呼ばれました。ゴールドのロゴと時間を示す針はアローハンドとなっていてそのシンプルさが印象的です。モデルによってはベゼルの目盛りが品のいいアクセントとなっています。
そして1966年に発表したキャリバー.2-66ではついに厚さ2.5mmを実現しました。この発表はほかの時計メーカーたちを大いに驚かせました。
そして腕時計の薄型化をめぐる各社の競争に終止符を打ちました。
1970年以降マイクロローターを手掛けたのはユニバーサルジュネーブ社、ビューレン社、ピアジェ社の3社のみです。中でも時計デザイナーの巨匠であるジェラルド・ジェンタ氏の作品は珠玉のユニバーサルの作品として愛されています。
マイクローターの仕組み
機械式時計の動力源は内蔵されたゼンマイです。それを巻き上げることで動力が生まれます。ゼンマイの発明は腕時計が流行するはるか昔でした。ある記録によると16世紀にドイツで作られた小型時計にゼンマイが使用されていたと残っています。
ゼンマイの巻き上げは手動と自動の二つの方法があります。
一般的に手巻きのものはリューズを回し、ゼンマイを巻き上げる仕組みになっています。
そして自動巻きと呼ばれるものはローターと呼ばれる回転錘(ゼンマイを巻き上げる部品)をムーブメントに取り付けることで、ゼンマイを巻き上げる仕組みになっています。
この自動巻きの仕組みに改革をもたらしたのがユニバーサル・ジュネーブでした。
これまでムーブメントの基本構造は自動巻きも手巻きも似たようなものを使用していました。自動巻きの場合、ムーブメントの中央部分にある軸の上に回転錘を重ねていく手法をとっていました。つまり、機械に新たな機械を重ねるような作りになるので、機能性を求めて複雑化すると同時に時計本体の厚みが増してしまうというデメリットがあったのです。
そこでユニバーサル・ジュネーブでは新たなアイディアに挑戦しました。それはムーブメントそのものにくぼみを作り、その空いた空間に小型の回転錘を組み込むという複雑な構造ものでした。元々小さいムーブメントの空間の中にさらにスペースを作って機械を仕込むので、要求される技術力がいかに高度であったかは言うまでもありません。
ユニバーサル・ジュネーブではこの仕組みを小さいという意味の「マイクロ」と部品名の「ローター」をくっつけて「マイクローター」という名前を付けました。(ユニバーサル・ジュネーブ以外のものについてはマイクロローターと呼んでいるところが多い)
画像はユニバーサル・ジュネーブの中でも最も薄いマイクローターの図。
従来の仕組みではローターがムーブメントの表面の半分以上を占領してしまっていました。そうすると中の機構を見たくてもわずかな隙間からのぞくしかありません。この点、マイクローターは内部の複雑な機構をしっかりと見ることができるのも、ファンたちに愛され続けている理由の一つかもしれません。